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2018/03/10

彩瀬まる「くちなし」感想

 短編集です。女性が主人公で、しかもどの女性もなんだか感情表現がねじくれています。従来からある価値観に意義を差し挟みます。例えば結婚しない女は価値がないとか、子を産まない女は価値がないとか・・・にです。おかげで異性関係がうまくいきません。そのうまくいかなさ加減を、短編ごとに手を変え品を変えてしつこく訴えてきます。ですから全部一度に読むと、げんなりしていしまいます。一つずつ読むことをお勧めします。

 SFの手法を使っていておもしろいなと思ったのは「花虫」。

 カタツムリに寄生し、カタツムリの行動を夜行性から昼行性へとコントロールし、わざと鳥に発見されやすくして鳥に捕食させ、今度は鳥に寄生する、というおそろしい寄生虫ロイコクロリディウム。本作は実在する恐怖の寄生虫を美しくアレンジし、人間に寄生させて、愛情のコントロールを行うという設定。はたして寄生虫にコントロールされた愛は、本物なのか? 偽物だとわかった上で、人はそれを拒絶できるのか? 今の幸せな毎日を捨てて、本当の感情を手に入れようと思うのか? 「愛こそすべて」という従来の価値観に、真っ向から異議を唱えた大作(笑)となっております。結構ぞわぞわしながら読みました。

 一番のお気に入りは「愛のスカート」。変人ファッションデザイナーを好きになってしまった主人公。ところが彼は、さほど美人でもない子持ちの人妻に恋をしている。傷心の主人公が彼に創作上のあるアドバイスをしたところ、大ヒット作品「愛のスカート」ができあがり、おかげで彼は一躍売れっ子デザイナーに。彼も主人公も、成就しない恋とわかりながら、それをこれからも育てていくだろうことを予感させて本作は終わります。本短編集の中では異色と言えるほどに明るい展開であるところがいいですね。報われない愛でも、「自分は彼の成功に貢献している」というささやかな自己満足が得られるのならば、こういう展開もアリではないかと思ったりします。

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