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2017/07/16

柚木麻子「BUTTER」感想

 直木賞候補作。

 モデルとなった木嶋佳苗は、「婚活連続殺人事件」の犯人として、5月に最高裁で死刑判決が出たばかり。

 本作では梶井真奈子(略してカジマナ)として登場する。

 前半は、獄中のカジマナから独占インタビューの許可をもらうために、彼女の言われるがままに、BUTTERを中心とした脂肪分たっぷりの食事を摂りまくり、どんどん太ってしまう女性記者の話がメイン。はたしてカジマナとつきあって次々に亡くなった男性3人は、自殺なのか? それともカジマナの手による他殺なのか? 

 ところが中盤から小説は、上記の謎解きなんかじゃなくて、女性が社会から求められている母親的立場というものの不条理さや不安定さをテーマとして描き始める。同時に、生活力がなく、自分で炊事洗濯家事一般がまったくできない、いや、やろうと思えばできるだけの能力があるのに、まったくしようとせず、女性に頼り切ってしまう男性たちへの批判も描かれる。なんだか俄然社会派小説っぽくなってくるのだ。

 ところがところが、終盤では、主人公たちは、心に抱えている闇の部分をカジマナによって曝け出され、糾弾され、精神崩壊直前まで追い込まれる。「あの人がああなったのは、自分があんなことをしたから。自分のせいであの人はああなってしまった。」その罪の意識を、カジマナは巧みに活用し、獄中から主人公たちをとことんまで追い詰める。「羊たちの沈黙カジマナバージョン」っぽい。

 前半はBUTTERの重さにくらくらしたが、後半は別の意味で、ものすごくヘビーな小説なのである。

 彼女たちがどうやってそこから立ち直っていくか。小説のタイトルが、そのヒントをきちんと示している。

 というわけで、本書はテーマが二転三転するので、一気読みすると印象が散漫に感じられる恐れがある。三分割して読むと、ちょうどよいかもしれない。一冊で三度おいしいと思えるかも。

 絵本「ちびくろサンボ」の、虎がバターになってしまった話は一体何の比喩なのか、その解釈がいくつかか出てくるのだが、前半のはなかなか面白かった。ただ、後半の、虎の骨についての解釈はちょっと無理があるかなと。

 あと、本書は多彩な比喩表現によって、BUTTERをたっぷり使った料理のおいしさを、読者にこれでもかと想像させてくる。 ストイックに節制することの愚かさを、かなりな説得力で描いた実におそろしい小説なのである。

 いやこれ読んだら、食べたくなるだろBUTTER!

 最後に、どうでもよい突っ込み。 

 作中で阿賀野にある三美神についての描写がある。「三人の働きものの乙女の銅像」だそうだ。カジマナが「複数の女が、それも美しい女が仕事をしながら仲良くできるわけがないし、三人いたら、絶対に一人は仲間外れになるに決まっているでしょう。乙女像がいずれもスレンダーであることも、許せませんでした」と語るシーン。11年前だったらこの部分、私は同意していただろう。しかし今は違う。美しくて仲の良い、しかもすごくよく働く三人の女性グループが、日本の音楽界に存在することを知っているからだ(彼女たちの存在そのものが奇跡だという意見もあるが)。

 

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