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2017/07/29

前野ウルド浩太郎「孤独なバッタが群れるとき」感想

 ファミコン全盛期のころ、コーエーの「信長の野望」というゲームにはまった覚えがあります。当然その流れで同じくコーエーの「三国志」にものめりこみました。「信長」と違い「三国志」は、プレイヤーにはどうしようもない恐怖のイベント「ああ、いなごだ・・・」がありました。せっかく内政に励んで穀物の収穫量を上げ、人口を増やしても、このイベントが発生するとばたばたと領民が餓死していくという、世の中の不条理を実感させてくれる素晴らしいゲームでした(笑)。

 そんな私ですから、当然本書のタイトルには無条件で食いついてしまうわけです(笑)。しかも本の帯には「その者、群れると黒い悪魔と化し、破滅をもたらす」とあるのです。ナウシカのパロディみたい(その者、青き衣をまとい金色の野に降り立つべし)。

 本書で取り上げるサバクトビバッタですが、

「見た目は馴染みのあるトノサマバッタに似ている。成虫は約二グラムほどで自分と同じ体重に近い量の新鮮な草を食べるので、一トンのバッタは、一日に二千五百人分の食糧と同じだけ消費する計算になる。しばしば大発生して、大移動しながら次々と農作物に壊滅的な被害を及ぼす害虫として世界的に知られている」

とか、

「巨大な一つの群れは五百キロメートル途切れることなく空を覆う」

とか、

「語源はラテン語の『焼け野原』からきている」

とか、

「植物を食い尽くすと、バッタたちはまた新しいエサ場を求め進撃を繰り返していく。彼らが過ぎ去った後には緑という緑は残らない。残るのは人々の深い悲しみだけだ」

「普段目にする緑色のバッタこそが、悪魔の正体で、複数のバッタの幼虫を一つの容器に押し込めて飼育すると、あの黒い悪魔に豹変するというのだ」

などなど、刺激的な記述がこれでもかと続くのです。

 筆者は、群れると危険になるというバッタを、徹底的に飼育観察。様々な条件で比較をした結果が、データとともに述べられています。どれくらいバッタ密度が濃くなると、平和を好む緑バッタが、危険な黒バッタを産むようになるのか。どんな刺激がきっかけで、凶暴な黒バッタを産むようになるのか。

 特に衝撃的なのが、卵黄の量の多い少ないが、緑バッタになるか黒バッタになるかを決めるという部分。筆者は自分の仮説を証明するために、バッタの卵から卵黄を抜き取るという、なんとも大胆な方法をとるのです。しかも「卵に針で穴を開け、中の卵黄を絞り出す」という、まんま手作業の、実にアナログな手法によって。こんなんでうまいこといくんかい! ・・・うまいこといくんです。なんでもやってみるものなんだなあ・・・。

 低密度で育ったバッタは、小型の卵をたくさん産み、子孫をより多く残す戦略をとったほうが生存競争に有利だけれど、高密度で育ったバッタは、大型の卵を少数産むことで、劣悪な環境下でもたくましく生き延びる子孫を残したほうが有利なのだろうというのが、筆者たちの仮説です。

 人間も増えすぎると、好戦的な性格の子孫が増えて、過酷な環境下でも生き延びようとするのかなあ・・・。

 考え出すととんでもなくシリアスになるのですが、本書は随所に脱力系のどうでもいい小話が散りばめられており、緩い笑いとともに読み進めることができます。いいバランスです。

 例えば、博士号を所得していい気になった筆者が、バッタではなく夜のアゲハ(比喩)に夢中になり、研究を台無しにしかけて、正気に戻る話とか(笑)。

 筆者のミドルネームに「ウルド」が入る理由とか(笑)。

  「僕の研究で世界を救う」みたいな、誰かに役に立ちたくて研究やってます的なところがみじんもないところも好印象。好きだからやってるという一貫したスタンスなんですね。

 いやあ、理系男子の書く本って、邪念がなくて楽しいなあ。

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2017/07/25

「Kiss and music」がNHK「超入門! 落語 THE MOVIE」で流れる!

 2017年7月24日にFMで放送された「Perfume Locks」で、「こんなところでPerfumeの曲が流れてきた」体験をリスナーが投稿するコーナーがあった。

 「香川県ハタチ男の子ラジオネームましろ君、先日録画してあった古典落語のテレビ番組でPerfumeさんの『Kiss and music』が流れていました。え~っ! 古典落語と『Kiss and music』の組み合わせ、なかなかのレアキャラじゃないでしょうか」「超レアだと思う」「すごいね」「古典落語のテレビ番組まだあるってことを知らなかったわ」「たしかに」「しかも先日録画してたんで」「え、ハタチで、古典落語見てたの」「秀才な子なんでしょうね」「不安定な感じと、このベース音が、ちょっとくるんですかね」「いい感じで話が進むのかな」「でも確かにイントロの感じとか、音は、ぽさ出てる」「不穏な感じ」「古典ぽさ」「ただ、夜に溺れてとか、ワインをなんとか・・・とかこの歌言ってるよね」「全然落語じゃない」「どういう感じのシーンで流れてたんだろ?」

 偶然我が家のレコーダーにも録画が残っていたので、彼女たちの「どういう感じのシーンで流れていたのか?」という疑問にお答えしよう(笑)。

 「Kiss and music」が流れたのは2017年7月3日(月)PM11:00に放送されたNHKのEテレ「超入門! 落語 THE MOVIE」という番組である。「二番煎じ」という落語ドラマの後で、「江戸に聞く」というコーナーがあった。落語のちょっとした疑問を江戸の住人に聞くという形式をとっている。落語「二番煎じ」の中で、猪の肉を酒の肴にするシーンがあり、それに関連して「イノシシの肉はよく食べる?」という質問がなされた。この質問シーンで「Kiss and music」の前奏部分が流れたのだ。

 江戸時代は一般的に肉食、特に四つ足の獣を食べることは禁忌とされていた。ひょっとしたら江戸時代の人々は、その禁忌をこっそり破っていたのだろうか? というちょっとドキドキする不穏な感じが、まさに「Kiss and music」にぴったり。

 のっち「この曲を使った人はセンスいいと思う」

 私もそう思う(笑)。

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2017/07/23

wowow「ひつじ村の兄弟」感想

 第68回カンヌ国際映画祭<ある視点部門>グランプリ受賞作品。
 アイスランドの人里離れた山村で、隣同士に住む老兄弟グミーとキディーは超変人。女性とまともな会話ができないため、二人ともずっと独身。ただ、羊の飼育に関しては村で一番二番を争うほど。毎年村の羊コンテストで優勝、準優勝を獲得したりする。ところがこの兄弟、隣に住んでいながら、この40年もの間全く口をきかないほどの不仲。どうしても会話が必要な場合は、飼い犬に手紙を託すという、非常に古典的な手段を使うのだ。

 ある日、兄キディーの羊がスクレイピーにかかっていることが判明。規則により、村の全ての羊は殺処分、羊小屋も全て殺菌焼却処分しなければならなくなる。村の羊飼いたちは皆、断腸の思いで飼っていた羊を処分する。もちろん、政府から補償金は出るのだが、ここまで何世代もかけて優秀な遺伝子を育て上げてきた兄弟にとって、処分される羊たちは、もはや金では買えない価値のあるもの。

 というわけで、弟のグミーは掟破りの行動をとる。しかもそれが、ずっと不仲だった兄弟が共同戦線を張るきっかけとなるのだ。ざっくり言うと本作、兄弟が仲直りする話なのだ。

 ラストの伏線として、何度も兄弟の入浴シーンが出てくる。年取った爺さんの裸なんか見たくもないのだが、これがラストの伏線になっているのだから面白い。

 羊がやたらとかわいい。とくにラストシーンで夜の山岳地帯を駆けていくシーン。きゅっとひきしまった足首と、もふもふの毛のコントラストがなんとも言えない。

 最後のスタッフロールで流れる曲も実に素晴らしい。

 で、結局羊はどうなったの(笑)?

 

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2017/07/16

柚木麻子「BUTTER」感想

 直木賞候補作。

 モデルとなった木嶋佳苗は、「婚活連続殺人事件」の犯人として、5月に最高裁で死刑判決が出たばかり。

 本作では梶井真奈子(略してカジマナ)として登場する。

 前半は、獄中のカジマナから独占インタビューの許可をもらうために、彼女の言われるがままに、BUTTERを中心とした脂肪分たっぷりの食事を摂りまくり、どんどん太ってしまう女性記者の話がメイン。はたしてカジマナとつきあって次々に亡くなった男性3人は、自殺なのか? それともカジマナの手による他殺なのか? 

 ところが中盤から小説は、上記の謎解きなんかじゃなくて、女性が社会から求められている母親的立場というものの不条理さや不安定さをテーマとして描き始める。同時に、生活力がなく、自分で炊事洗濯家事一般がまったくできない、いや、やろうと思えばできるだけの能力があるのに、まったくしようとせず、女性に頼り切ってしまう男性たちへの批判も描かれる。なんだか俄然社会派小説っぽくなってくるのだ。

 ところがところが、終盤では、主人公たちは、心に抱えている闇の部分をカジマナによって曝け出され、糾弾され、精神崩壊直前まで追い込まれる。「あの人がああなったのは、自分があんなことをしたから。自分のせいであの人はああなってしまった。」その罪の意識を、カジマナは巧みに活用し、獄中から主人公たちをとことんまで追い詰める。「羊たちの沈黙カジマナバージョン」っぽい。

 前半はBUTTERの重さにくらくらしたが、後半は別の意味で、ものすごくヘビーな小説なのである。

 彼女たちがどうやってそこから立ち直っていくか。小説のタイトルが、そのヒントをきちんと示している。

 というわけで、本書はテーマが二転三転するので、一気読みすると印象が散漫に感じられる恐れがある。三分割して読むと、ちょうどよいかもしれない。一冊で三度おいしいと思えるかも。

 絵本「ちびくろサンボ」の、虎がバターになってしまった話は一体何の比喩なのか、その解釈がいくつかか出てくるのだが、前半のはなかなか面白かった。ただ、後半の、虎の骨についての解釈はちょっと無理があるかなと。

 あと、本書は多彩な比喩表現によって、BUTTERをたっぷり使った料理のおいしさを、読者にこれでもかと想像させてくる。 ストイックに節制することの愚かさを、かなりな説得力で描いた実におそろしい小説なのである。

 いやこれ読んだら、食べたくなるだろBUTTER!

 最後に、どうでもよい突っ込み。 

 作中で阿賀野にある三美神についての描写がある。「三人の働きものの乙女の銅像」だそうだ。カジマナが「複数の女が、それも美しい女が仕事をしながら仲良くできるわけがないし、三人いたら、絶対に一人は仲間外れになるに決まっているでしょう。乙女像がいずれもスレンダーであることも、許せませんでした」と語るシーン。11年前だったらこの部分、私は同意していただろう。しかし今は違う。美しくて仲の良い、しかもすごくよく働く三人の女性グループが、日本の音楽界に存在することを知っているからだ(彼女たちの存在そのものが奇跡だという意見もあるが)。

 

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2017/07/09

wowow「グッドネイバー」感想

 最近じいさんが主役の映画を立て続けに観ているような気がします。これも高齢化社会の影響でしょうか?

 さて本作、隣に住んでいる偏屈な老人の家に、無線装置を使って怪奇現象を発生させ、老人が驚く様を盗撮して楽しもうという、ろくでもない若者二人組が主人公。二人組の、イーサンのほうが、とにかくむかつく大馬鹿野郎で、観ていて胸くそ悪くなってきます。いちおう最後のほうで、イーサンがなぜこんなことをしたのか、その動機が説明されます。だからといって、彼らの行いを許す気には、さらさらなれませんが。

 次に老人のほう。彼は次々に起こる怪異現象にまるで動じず、しばしば地下室にこもるので、若者二人組は、絶対地下室に何かあると思い込みます。たしかに地下室には何かあります。それは最後に明かされるのですが、ドラマの途中で何度か、老人の過去の記憶が映像として挟み込まれます。これがヒントとなっています。

 最初はこの老人、近所迷惑な偏屈じじいとして描かれます。犬を散歩させている人を見かけたら、「ちゃんとしつけておけ。さもないとこの犬を切り刻んでお前の家に送りつけてやる」みたいなことを言ったり。ところが最後のどんでん返しで、観客はびっくり。私なんかてっきり、じいさんは射殺されたのだとばかり・・・これ以上ネタバレするのはやめましょう。ただ、タイトルはちゃんとこの作品の内容を暗示しているということは、お知らせしておきます。

 思いっきりB級映画ですが、なかなかの佳作だと思います。

 今後も、老人が主役で、なおかつ様々な切り口の映画が増えていく予感がします。

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2017/07/02

WOWOW「セトウツミ」感想

 漫画が原作の映画。

 「セトウツミ」というタイトルは、主人公の瀬戸(せと)と内海(うつみ)の名前を組み合わせたもの。登場人物はほとんどこの二人だけ。

 大がかりなセットや、ど派手な演出一切なし。二人の男子高校生の会話だけで、ドラマは淡々と進行する。

 はっきり言って、映画にする必要性をまったく感じない。

 普通この手の作品は、演劇とか、深夜テレビとかでやるものなのでは? WOWOWで見るくらいが、ちょうどいいんじゃないかと思う。金払って映画館で見るものではない。

 じゃあ、なんでここで紹介するかというと・・・、それは当然おもしろかったからである。

 まずキャスティングが素晴らしい。お調子者の元サッカー部瀬戸を菅田将暉が、クールな秀才高校生の内海を池松壮亮が演じる。今もっとも旬な二人を使って、だらだらとしゃべるだけの映画をつくるという壮大な無駄遣い! でもそれが面白いのだからすごい。

 会話の内容は、瀬戸が片想いしている女の子に送るメールの文面を、内海に添削してもらったりとか、瀬戸が自宅で発生した小バエの駆除に困っていると、その駆除方法を内海が助言したりとか、ほとんどどうでもいいようなことばかりなのだ。

 普通の青春映画なら、「時間をもっと有意義なことに使え」とか、「何かに夢中になって打ち込んでみろ」とか、そういう王道のパターンがあるものだが、本作は真っ向からそれらを否定する。「走り回って汗かかなあかんのか」「なんかクリエイティヴなことせなあかんのか」「仲間と悪いことしたりせなあかんのか」「この川で暇をつぶすだけの青春があってもええんちゃうんか」

 だらだら話すその会話の中に、時々ちらりと青春が見え隠れする。この世の真理が一瞬示されたりする。結構深いのである。

 登場人物は少ないが、皆愛すべきキャラクターとして印象に残る。特に菅田将暉、いい役者だと思う。

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