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2017/06/11

鳴海 風「円周率の謎を追う~江戸の天才数学者・関孝和の挑戦」感想

 平成29年度読書感想文中学生の部第3弾。
 そこそこネタバレあります。

 実在の有名人物をもとにした小説です。ヨーロッパの数学者よりもずっと早くに、円周率に関する理論を発見しまくっていたという天才数学者・関孝和が主人公。彼の、幼少期から青年期にかけての資料はほとんど残っておらず、従って、どんな少年時代を過ごし、どんな性格で、どんな女性とおつきあいしていたかは、誰にもわかりません。というわけで、このあたり完全に作者が創作して書き上げたのが本書。

 まず関孝和少年期のキャラ設定。
 外見は背が低くて剣道も弱く、武士なのに体育会系ではない描き方。ならば勉強ができるのかと思いきや、引っ込み思案で口下手。論語も十分に理解できていない・・・というように、中学生の読者が読んだら親近感を抱くように描いてあります。ただし、何事も慎重に考えてから返答するというあたりから、なるほど、じっくり考えて考えて考え抜く性格で、だから最終的にはすごい業績をあげるのかと、読者はうなずくような仕掛けになっております。

 彼が通う数学塾の先生には香奈という娘があり、主人公よりちょっと年上(孝和15歳、香奈18歳)の、美人で積極的な女性として描かれます。肺の病にかかり、婚期を逃したという設定。当然主人公は積極的な香奈さんに引っ張られる形で、算学(江戸時代、数学の難問を絵馬に書いてお寺に奉納するのが流行っていた)に次々挑戦していくわけです。
 で、このあたりから既視感に襲われます・・・。いやこれ、江戸時代の天文学者を描いた「天地明察」と同じパターンだろ! もうちょっとヒネりが欲しいような・・・。まあでも、「天地明察」の重要な登場人物の一人が関孝和ですから、これは仕方ないところでしょうか。

 さて本書、全部で200ページ弱の短い小説なのですが、140ページを越えた辺りから、急に史実に忠実な書きっぷりになってきます。関孝和が壮年にさしかかる辺りからは、資料が結構残っていて、作者が勝手に書くわけにはいかないのでしょうね。結果、だんだんと小説ではなく、偉人伝っぽくなってきます。その淡々とした進行にはびっくりです。前半の頼りないキャラが、後半はやたらと分別のある人物に変わり、お家のために上司に言われるまま縁談をすすめ、所帯を持つのです。香奈さんも、後半は出番が少なくなったと思ったら、いつのまにか他の男の嫁になっていたり。前半あれだけ主人公とラブラブだったのは、一体何だったの(笑)。

 円周率の求め方についての説明はよくできていて、中学生にもすとんと理解できるでしょう。できれば本物の「大成算経」のコピーと、その読み方、それを現代の数学の数式に置き換えたものなんかを、資料として添えてくれたらなおよかったのに。でもそこまでやっちゃうと、完全にノンフィクションになっちゃいますか。

 「西洋の数学者は新しい理論を発見したら自分の名をつけて業績をアピールする。関を代表とする江戸時代の数学者はそんなこと考えもしなかった。彼らはただ数学が好きなだけであった」という西洋の数学者との比較で本書はしめくくられます。論語の「これを知るものは、これを好む者におよばない」と、ちょっと似てますか?
 まあでも、偉大な発見をしたら、やっぱりきちんと功績として残し、有名になり、皆から褒め称えられたいと思うのも、人間の自然な感情だと思うので、感想文を書くなら、このあたりをどう書くかでしょう。
 

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