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2017/04/09

貫井徳郎「壁の男」感想

「ある北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。
その、決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男、 伊苅(いかり)に、ノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが……。 彼はなぜ、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか? 寂れかけた地方の集落を舞台に、孤独な男の半生と隠された真実が、 抑制された硬質な語り口で、伏せたカードをめくるように明らかにされていく。ラストには、言いようのない衝撃と感動が待ち受ける傑作長篇。」

というのが本作の紹介文。

で、読んでいて最初に思ったのが、次のようなこと。

 下手くそな絵が、人の心をとらえるようなことが、本当にあるのだろうか? 下手くそな絵は、どれだけその背景に人情ドラマがあろうが、所詮下手くそな絵でしかないのではないか? 

 こればかりは実際に絵を見てみないと判定できない。もちろん本作は小説だから、絵の情報については、どこまでも文字で描かれるので、実際の絵がどのようなものかは、読者の想像力お任せという、丸投げ状態。仕方ない。

 それでも、本作は随所に破壊的な説得力を持つ描写があり、読者をう~んと唸らせる。

 例えば、伊苅が高校生のころのエピソード。「才能がある人のほうが、ない人より偉いなんて誰が決めたんだ」「才能があるから偉いんじゃなく、何をするかが大事なんだ」

 技巧を凝らした絵を描く才能が偉いのではなく、絵を描くことで何を成し遂げたか、そちらのほうが大切だというのが、この小説のテーマであろう。下手くそな伊苅の絵を、以前から快く思っていなかった老人が、ある日、伊苅に言うのだ。

「以前、どうして家の壁に絵を描くんだとおれが文句を言ったとき、気持ちが明るくなるからだとあんたは答えたよな」「じゃあ、うちの壁にも絵を描いてくれないか」「壁に絵を描けば、気分が明るくなるんだろう? おれもこのくさくさした気分を明るくしたいんだよ」

 そしてラスト、伊苅が下手くそな絵をなぜ描くのか、その理由が明らかにされる。

 なかなかに感動的な小説なのである。

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