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2017/03/26

BD「シング・ストリート」感想

  アイルランド映画。

 アイルランドで家庭環境にやさぐれていた少年が、一目惚れした女の子の関心をひくために急遽バンドを組むという、たいへん不純な動機によるストーリー展開がよい。しかも、バンドを組んだメンバー一人ひとりの家庭環境に関するドラマや、バラバラだった彼らが一つにまとまるドラマ、へたくそだった演奏がどんどんうまくなっていくための血の出るような猛特訓ドラマなんかは思い切って全て割愛し、主人公のコナーと美少女ラフィナ二人に絞り込んだ所も潔くてよい。

 未来のないアイルランドの町から、才能のある若者が都会へ脱出するという展開は、最近女の子バージョンで「ブルックリン」でも描かれたし、古くは「リトル・ダンサー」からあるパターンだ。そういった過去の名作との違いは、ずばり懐かしい1980年代の音楽にあるだろう。

 コナーの兄が持っているLPレコード「デュランデュラン」や「ホール&オーツ」「スパンダーバレエ」などの名曲が、すさんだ兄弟の心を癒やし、暗い生活にわずかな光明を見せる。それだけならまあ普通の名作で終わるところ。本作がすごいのは、コナーたちが作曲し演奏するオリジナルの楽曲が、いずれも1980年代テイストたっぷりの名曲ぞろいという点にある。とにかく驚いた。たいていこの手の、ミュージシャンを主役にした映画では、オリジナル曲はつまらないものになる事が多いのだ。過去の名曲に果敢に挑んだのはいいが、あえなく撃沈という映画はたくさん観てきた。(例えば「あやしい彼女」。   あえて過去の名曲に挑戦しなかった作品もある。「BECK」だ。)

 しかし本作は違う。メロディーラインがキャッチーで美しい曲ばかりなのだ。1980年代に、ピーター・バラカンの「ポッパーズMTV」に夢中になった世代は、まず間違いなく本作にはまるだろう。ついでに言うと歌詞も抜群に素晴らしい。主人公たちの心のうちを見事に表現しており、このあたりある意味ではミュージカル的手法なのだ。

 コナーの兄が重要な役として登場するのだが、彼の「フィル・コリンズを好きな男に惚れる女はいない」という台詞が、「ポッパーズMTV」は好きだけど「ベストヒットUSA」はあまり・・・という人にとっては、あまりに名台詞すぎて泣けることだろう。

 ラストの、二人を待ち構える未来が過酷であることを象徴しつつも、しっかり乗り越えていくだろうことを暗示する終わり方もよかった。

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2017/03/20

アリス・マンロー「ジュリエット」感想

 カナダのノーベル文学賞作家による短編集。

 だが、そのうちの3作は、ジュリエットがヒロインの連作となっている。

 「チャンス」は彼女が大学院で古典を学んでいる時の、男の選択が描かれる。「すぐに」では未婚の母となったジュリエットの、母親や故郷の人々との距離の取り方が描かれ、「沈黙」では中年のキャリアウーマンとなったジュリエットの、娘との距離の取り方が描かれる。このように、女の一生で何度か出てくる人生の重要な選択シーンが次々に登場する。

 「東京タラレバ娘」というTVドラマは、「あの時ああしていたら・・・、こうすれば・・・」と過去を振り返っては、グダグダの泥沼状態に陥いり、そこから抜け出せない3人娘に向かって、「振り返るな、行け!」というナイスなアドバイスをする金髪イケメンという展開が、なかなか面白い。

 ジュリエットにも、タラレバ的な人生の分岐点がいくつも現れるのだが、このヒロインは振り返らないし、後悔しないのだ。どちらかというと、読者の方が「あんたあの時、ああしていたら」と、いらぬ忠告をしたくなるという(笑)。でもヒロインはそんな忠告、もし聞こえてもどこ吹く風みたいに、逞しく生きるのだろう。

 彼女の賢さがそうさせるのだろう。「賢い」というのは、人生の分岐点でどちらを選ぶか、きちんと自分で決断する力があり、そして自分で選択した結果は全て受け止めるだけの覚悟があることを言うのだということが、本作を読むとわかってくる。決して学力の高さとは関係ないのだ。

 魅力的なヒロインである。

 ちなみに私の好きなアルモドバル監督が、本作を映画化したそうである。是非観てみようと思う。

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2017/03/12

BD「ブルックリン」感想

 イギリス映画。

 途中まで見て、ふと思いました。このパターン、森鷗外の「舞姫」じゃね?

 男女の立場を入れ替えたら、なんだかそっくりな気がします。

 舞姫とは「ドイツに留学中、美少女エリスと恋仲になる主人公太田。しかし、身勝手な事情により、太田はエリスをドイツに残し帰国する。」という、なかなかに鬼畜なストーリーなのですが、本作は「舞姫」以上に鬼畜なストーリー展開となっており、見ていて、お口あんぐり状態となります。なにしろ二重結婚一歩手前まで行くのですから。しかも、イライラ女(雑貨屋のおばさんにつけられたあだ名)が指摘しなかったら、本当に二重結婚していたかもしれないという・・・。いやはや、イライラ女さまさまです、ああ、危なかった。おかげで、ぎりぎり人間として踏みとどまることができたヒロインでした。

 ちなみに、かように重要な役割を果たすイライラ女に向けてのヒロインのお言葉は「何がしたいんです? ジムから離れさせたい? 私を町にとどまらせたい? 自分でもわからないのね」という辛辣なもの。でもこれって、そっくりヒロインにも当てはまる所がイタイ。まさしく自分でもわからなくて迷走しまくり状態。

 本作は、「アイルランドのど田舎から、ニューヨークのブルックリンに女一人で移住し、様々な困難を乗り越え、逞しく自立していく女」というテーマで見ればいいんでしょうけど、男が女に対してさんざんやってきた非道な行い(その時の感情で女を取っ替え引っ替えする)を、男女ひっくり返してドラマにしてみました? 的な感覚がどうしても拭いきれず、いまいち感情移入できませんでした。 

 ちなみにヒロインを演じる女優さんはシアーシャ・ローナン。日本の女優さんだと、黒木華を3割ほどボリュームアップさせた感じ? おぼこい顔して、ヤルときゃヤリます。後半になるにつれ、ファッションやお化粧がどんどん垢抜けていく様子は、見ていてなかなか楽しかったです。 

 

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2017/03/05

恩田陸「蜜蜂と遠雷」感想

 グルメ漫画が流行した時に、どうして食べてもいないのに、こんなにおいしく感じるのだろうと感心したことがある。「複雑で深みのある香りのタペストリー」といった比喩表現や「はふはふ」などの擬音語により、我々読者は食べたことのない美味を勝手に脳内で想像しつつ読んだのだ。

 本作を読んでいて、そんなことを思いだした。聞いたことのない曲が半分近くを占める。それなのに、あたかも今聞いているような錯覚。サンサーンスの「アフリカ幻想曲」に至っては、手持ちのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」と同じCDに収録されており、ということは今まで何度も聞いているはずなのに、まったく記憶に残っておらず・・・。本書を読んであらためて「ああ、この曲ってこういうイメージの曲だったんだ」と感心したり。

 例えばバルトークのピアノ協奏曲。ほとんどの読者が聞いたことないだろう。私だって聞いたことない。それが本書では「森を通り抜ける風」とくる。なんだか聞いたような気がしてくるではないか。曲が変わるたびに、いや同じ曲でも演奏者が変わる度にこんな調子で、新手の比喩表現を次々に繰り出してくる恩田陸に、ひたすら脱帽である。最後の方なんか、もう満腹でご馳走様って感じである。

 ちなみにようつべでは、小説の進行順に曲を並べた動画もアップされているようで、たいへんな手間であったろう。実にありがたいことである。

 ところで、ヒロインの名前は栄伝亜夜。実在のピアニストに長冨彩という、チャーミングな容姿の方がいらっしゃる。実は彼女のCD3枚持っているのだが(外見に釣られて買いました)、そのうちの1枚にコンクール曲の「イスラメイ」が収録されている。長冨彩、ひょっとして本作ヒロインのモデル?

 もう一つ、ヒロイン栄伝亜夜は皆から「アーちゃん」と呼ばれている。アーちゃんは天然である。コンクールのライバルであるマサルや風間塵とは、ライバルと言うよりも、お互いに尊敬しあう仲であり、それぞれの演奏が刺激となって、より高次元な表現につながっていくという、実に理想的な関係の3人組なのだ。 確か「あ~ちゃん」という名前の天然な女性が、お互い尊敬しあう3人組でユニット作って、紅白歌合戦に9年連続で出場してたような気が・・・。ひょっとして本作ヒロインのモデル(笑)?

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