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2017/02/19

山下澄人「しんせかい」感想

 芥川賞受賞作

 文藝春秋を読むと、どうも選考委員内でも評が割れたらしい。本作を最も推していたのが川上弘美氏で、しかも、どこがよいのかうまく説明できず苦しんでいる有様。

 そういうわけで、かなり変わった作品ではある。

 冒頭1ページ目から、すでに怪しい。「なぜあの船乗りはぼくにだけささやいたのだろう。ほんとうにささやいたのか。ささやいてなどいないのじゃないか。そもそもあれは船乗りか。船乗りだとしてあれはあそこにいるのか。いたのか。」

 おいおい、しっかりしてくれ。記憶を誰かにいじくられているのか! とでも言いたくなる。

 つきあっていた彼女からも「あんたの話って何ひとつまともに聞かれへんわ」と言われる始末。

 こんな主人公だから、北海道の某有名人による俳優養成学校でも、人間関係をうまく構築できない.。夢の中で同期の女性から「人のこともっとちゃんと見ろよ!! 聞けよ!!!」とか、「お前! いつか! バチが当たるぞ!!」と叫ばれたりもする。夢の中ということは、だから、本人に自覚があるのだろう。時々幽体離脱みたいな現象もおきたりして、自分を見ているもう一人の自分がいたりする。違う時間軸に飛んだりもする。

 結局主人公が、俳優としてどう成長するのかは描かれない。ただ、主人公が、自分の特殊なものの見方に気がつくあたりで本作は唐突に終わる。

 記憶の中で、現実と虚構の境界線があいまいになる。過去と現在もあいまいになる。実生活ではおおいに支障が出そうな、そんな特殊性を持った人物が、それを使って小説を書くと、こんな風になるのだろう。中毒性のある不思議な読後感である。

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