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2017/02/26

映画「ラ・ラ・ランド」感想

 シネマスコープサイズの映画で、しかもミュージカルということで映画館で観ることにしました。

 毎朝通勤途中で聞くFMラジオで、2回もこの映画のテーマ曲がかかり、「あ、いい曲じゃん」と思ったのも、きっかけ。

 ミュージカル部分はおおむね満足。ただ、映画館側(イオンシネマ高松東)の技術的な問題なのか、色は寝ぼけていているし、音もボンヤリ・・・。もっとビビッドであってもよかったのじゃないかと思うのですが、よその映画館ではどうだったのでしょう?

 ストーリーは結構青臭いですね。先日中学2年生の「学習の診断」国語科テストで、「職業選択するうえで、一番重視するものについて書け!」みたいな作文が出たのですが、結構地に足の着いた作文を書く生徒が多かったものですから。「まずは収入。お金がないと自分の好きなことができないから」「特技や趣味に関わる職種がいい。自分の得意なことを職業に生かせたら、毎日仕事が楽しいだろうから」・・・本作の主役お二人に読ませたいくらいです。

 結局男性の方は、後半で特技を生かしつつ、金を稼いで夢をかなえるという、堅実路線を歩みます。いわく「大人にならなくちゃ」というヤツですね。前半の青臭さから大きく成長です。

 では女性の方は? ・・・本作の脚本の弱さはこのあたりかなと。女性が成功する理由に説得力がないのです。結局彼女は何をがんばったから成功したの? どんな才能があったの? どうやって、誰によって才能を開花させたの? 

 まあ、それを差し引いても、ラストの持って行き方はなかなかに素晴らしく、傑作だと思います。切なさ一杯の実に大人なラブストーリーで、大変よかったと思います。

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2017/02/19

山下澄人「しんせかい」感想

 芥川賞受賞作

 文藝春秋を読むと、どうも選考委員内でも評が割れたらしい。本作を最も推していたのが川上弘美氏で、しかも、どこがよいのかうまく説明できず苦しんでいる有様。

 そういうわけで、かなり変わった作品ではある。

 冒頭1ページ目から、すでに怪しい。「なぜあの船乗りはぼくにだけささやいたのだろう。ほんとうにささやいたのか。ささやいてなどいないのじゃないか。そもそもあれは船乗りか。船乗りだとしてあれはあそこにいるのか。いたのか。」

 おいおい、しっかりしてくれ。記憶を誰かにいじくられているのか! とでも言いたくなる。

 つきあっていた彼女からも「あんたの話って何ひとつまともに聞かれへんわ」と言われる始末。

 こんな主人公だから、北海道の某有名人による俳優養成学校でも、人間関係をうまく構築できない.。夢の中で同期の女性から「人のこともっとちゃんと見ろよ!! 聞けよ!!!」とか、「お前! いつか! バチが当たるぞ!!」と叫ばれたりもする。夢の中ということは、だから、本人に自覚があるのだろう。時々幽体離脱みたいな現象もおきたりして、自分を見ているもう一人の自分がいたりする。違う時間軸に飛んだりもする。

 結局主人公が、俳優としてどう成長するのかは描かれない。ただ、主人公が、自分の特殊なものの見方に気がつくあたりで本作は唐突に終わる。

 記憶の中で、現実と虚構の境界線があいまいになる。過去と現在もあいまいになる。実生活ではおおいに支障が出そうな、そんな特殊性を持った人物が、それを使って小説を書くと、こんな風になるのだろう。中毒性のある不思議な読後感である。

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2017/02/12

宮下奈津「静かな雨」感想

 「羊と鋼の森」で2016年に本屋大賞を受賞した作者の、2004年デビュー作。文學界新人賞佳作受賞でもある。

 登場人物は若い男女。とある身体的な事情で恋愛に臆病な男性と、何かすごい過去があるらしい女性。

 とりわけ彼女が、いったいどういう経緯で、一丁焼きの鯛焼き器を手に、女手一つで小さな鯛焼き屋さんを営むことを志したのか、そのあたりが知りたくてたまらないのに、一切語られることなくドラマが終わってしまう。そっち方面で書いてくれても、一つの小説になるような気がするのだが。

 本作を語る上で避けて通れないのが、彼女の後半の設定。事故の後遺症で、記憶が一日しか保持できなくなってしまうのだ。そう、あの名作「博士の愛した数式」と、完全に設定がかぶってしまうのである。当然、どのように差別化を図るかが、作者の腕の見せ所となる。

 個人的には、毎朝目覚めるたびに、知らない男性と暮らしている、そんな自分を、彼女はどう自分に納得させるのか、といった女性視点のドラマが読みたかった気がする。記憶がリセットされる度に、彼との新たな出会いが始まるわけだから、果たして彼をどう感じるのか? 見知らぬ男性を、出会ってすぐに同居人として認めることができるものなのだろうか?

 彼女の過去、そして目覚めたら知らない男性と暮らしている自分への処遇、以上二点が、私の読みたかった展開で、本作はその辺り全く肩すかしにあった感じである。本作の後半は男性目線で、自分との記憶がなくなってしまう彼女との毎日の暮らしに、どう向き合うかが描かれるのだ。

 だからといって、本作が気に入らなかったわけではない。これはこれで、一つの作品であろうと感じるからだ。何気ない日常を、音楽の趣味やら鯛焼きの出来具合やら、繊細な描写で綴っているのが効いているし、なによりタイトルにあるとおり、静かな雨が彼に降り注ぐかのようなラストの読後感は、なかなかよかったと思うのだ。

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2017/02/04

今村夏子「あひる」感想

 第155回芥川賞候補作。ただし、賞は「コンビニ人間」にさらわれた。

 帯の惹句に「読み始めると心がざわつく。何気ない日常のふわりとした安堵感にふとさしこむ影」とある。

 あらすじを書く。

 主人公の庭で飼っているあひるを見に、近所の子供達が集まるようになる。おかげで寂しかった家は明るくなる。やがて、あひるは病死するが、かわりに結婚して実家を出ていた弟が、赤ん坊が産まれるからと言って戻ってくる。あひる小屋を取り壊し、増築するシーンでこの話は終わる。

 普通なら 家族仲良くいっしょに暮らせて、父母には孫もできて、めでたしめでたし・・・となるところ。ほっこりとした家族愛がテーマの小説・・・。

 違うのだ。心がざわつくのだ。理由はたくさんある。

 ひとつ。 父も母も、目先のことしか考えない人として描かれている。あひるの件もまさにそう。近所の子供達を家にひきつけるために、その場しのぎの手段を使う。子供にはそれがばれていて、しかも子供はそういう弱みを逆手にとって利用しているのだが、父母は、そこから目をそらしている。現実を直視しないのだ。

 ふたつ。 そんな父母に育てられた主人公(姉)も、いつまでたっても資格試験に合格できない。勉強に身が入らない理由をくどくどと並べ立てて自分を正当化する。親そっくりなのである。

 みっつ。 弟は暴力的な人間で、姉は、かつてしばしば弟に殴られていた。困ったら力で解決しようとする、そんな弟の性格は今も変わっていない。 

 こんな自立していない家族に、はたして幸せはやってくるのだろうか? ひたすら不幸の予感ばかりがして、心がざわつく、そんな小説である。

 実質58ページしかなく、しかも1ページ14行、1行34文字しかない。あっとうまに読める。だから繰り返し読んで、この家族の不健全さを感じ取ってほしい。

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