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2016/12/12

岡澤浩太郎「巨匠の失敗作」感想

 レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》の評論文が、中学校の教科書で取り上げられている。三つの科学的技法「解剖学」「遠近法」「明暗法」により、かっこいい絵だというのが筆者の主張。さらに500年の間にあちこち剥げ落ちて、細部が曖昧になったため、かえって構図のかっこよさがくっきりと見えてきたと言うのだ。

 そんなにかっこいいか、この絵?
 そう思った私は(アマノジャク!)早速図書室でこの本を発見し、読んでみたわけである。

 まずはいきなり宮下規久氏(神戸大学教授)による『ADHD(注意欠陥・多動性障害)だったのではないか』という推論から始まる。『積み上げ学習が苦手で何事も完成できない人』なんだという。まあこれは美術を専攻した人間にとっては常識的な知識らしい。それはそれとして、同氏の『たいした画家ではありません』とのご意見には「そうか、やっぱりそうなのか」特に《モナ・リザ》については『全然魅力的ではないです』筆者の岡澤氏までもが『《モナ・リザ》は好きな絵ではない』・・・ええ、ええ、私も《モナ・リザ》は好きではありません。自分だけ変なのかと思ってたけど、そんなことなかったんだ。よかった(安堵)。

 ところが、《最後の晩餐》に関してはこの宮下氏、『唯一の傑作です』『ミラノの美術史においてはものすごい影響を与えた画期的な作品』と褒めちぎる。え~、どこが~と思いつつ読み進めるも、残念ながら本書は、《最後の晩餐》のどこが傑作で画期的なのか、そこまでは書いてくれていない。登っている途中で梯子を外されたような気分である。そこ、大事なんじゃないの? 
 かわりに私は同じく図書室で、ノベライズされた《ワンピース》の表紙を発見して思ったのだ。「一点透視図法、日本の漫画界じゃあ、昔から当たり前の技法じゃん。」立体感ありまくりのマンガやアニメを見て育った日本の中学生には、《最後の晩餐》の、おそらく当時は画期的だったかもしれない科学的技法も、「だから何なの?」的評価になってしまうのは致し方あるまい。
 評論文というのは、読者を説得してナンボのもんなのだが、そういうわけで、中学校の教科書に出てくる《最後の晩餐》評論文は、ちっとも中学生を説得できていないのである。 困った困った(笑)。

・・・さて、本書はレオナルド・ダ・ヴィンチ以外にも有名な画家15名の、有名な作品15点を、複数の専門家の意見を活用して、常識的な見方とは違う観点で鑑賞しようとしている・・・のだが、《最後の晩餐》同様、中途半端感があちこちに顔を出す、困った本なのである。「他の作品」との比較もあちこちに出てきて、これは結構重要な部分なのだが、残念ながら「他の作品」の写真は掲載されておらず、いちいち自分でネットや画集を使って調べなければならない。著作権がらみでたいへんなのだろうけど、編集者さん、もうちょっとなんとかならなかったの?

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