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2016/11/27

森見登美彦「夜行」感想

 森見登美彦氏の新作です。

 デビュー作「太陽の塔」でファンタジーノベル大賞を受賞したのが2003年、その後「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話体系」で、京都の大学生を主人公にした京都地区限定エンタメ系に進むやに思われた森見氏ですが、2006年の「きつねのはなし」で、ただのエンタメではない、京都という古都が持つ魔力を主題に持ってきた正統派ファンタジー小説を書き、森見氏は、実はまじめに書くとこんな作風になるんだと読者を驚かせたのですね。

 その後「有頂天家族」やら「聖なる怠け者の冒険」やらで、再び京都エンタメ系(アニメ化もされた)に走った感のある森見登美彦氏ですが、今回久々に「きつね」系にカムバック。しかも舞台が、なんと京都からはみ出て尾道やら奥飛騨やら・・・。

 構成としては、登場人物が一人一人、自分の経験した怪異現象を皆に語って聞かせるという、「デカメロン」や「百物語」と似たパターン。おかげで、読者は一気に京都以外のあちこちの田舎に連れていってもらえます。当方尾道には二回ほど訪れたことがあり、さらに愛知にも親戚が多くなじみが深いので、第一話「尾道」と第四夜の「天竜峡」なんか、「あ、これ、あそこだ!」・・・ドキドキしながら読みました。

 本作は、娘が「長谷川潔を知っているかどうかで印象が変わるよ」と言って貸してくれたのですが、幸い妻が長谷川潔のファンだったらしく、どこかの美術館で買ったと思われる絵はがきサイズの作品がトイレの窓に立てかけて(笑)・・・。なるほど確かに夜のイメージが深まりそうなメゾチントです。

 表の世界と裏の世界。燭光の世界と夜行の世界、表裏一体となっていて、どちらが本当の自分の世界なのか、読者はくらくらとなり、判別ができないようになってくる、そんな魅力的な一冊です。

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2016/11/20

映画「この世界の片隅に」感想

 こうの史代氏原作のマンガを映画化したものです。

 こうの史代氏の作品を取り上げるのはこれで3回目くらいになると思います。「夕凪の街 桜の国」が実写で映画化された時は、麻生久美子の圧倒的な演技に打ちのめされました。今回「この世界の片隅に」がアニメで映画化されると聞いた時には、ものすごく不安になりました。こうの史代氏のタッチがアニメで表現できるとは到底思えなかったからです。

 どきどきしながら映画館に。客層は年齢層が完全にバラバラ。老年、壮年、青年と、ほどよくミックスされています。男女比もほぼ半々。基本的に戦時中の庶民の生活をダラダラ描いた作品ですから、客層に子供がいないのはまあ当然かなと。

 オープニングから圧倒されました。これはまさしくこうの史代氏のタッチ。色使いもまさしくこうの氏の水彩タッチそのまま。序盤ですずが、瀬戸内海の絵を白うさぎを使って描くシーンなど、ため息ものでした。全編こうの氏タッチのキャラが、まさしくそのまま自然に動きます。背景の美しさも驚異的です。タンポポの綿毛を吹くシーンでは、指先に残った綿毛のリアルさにびっくり。このスタッフは、一体どこまで本作を徹底して作り込んだのでしょうか。おそらくとてつもなく気の遠くなるような作業の連続だったと思います。採算を度外視しているとしか思えません。あちこちに見られるこのような職人芸に、スタッフの本作への愛がひしひしと伝わってきます。

 「神は細部に宿る」と言いますが、本作はまさにそれを実感させてくれる仕上がりとなっています。スタッフに心から感謝と尊敬の念を捧げたい。

 能年玲奈が芸名を「のん」と改め、主人公すずの声をあてていますが、両者のキャラが似通っているせいか(ぼんやりしている。空想にのめり込む癖があり、その間周囲が見えなくなる。彼女がいるだけで周囲が明るくなる等)、驚くほどピッタリはまっています。広島弁も実に自然です。

 音楽を担当するコトリンゴのボーカルも、のんの声質と似ており、しみじみと癒やされます。オープニングの「悲しくてやりきれない」には、いきなり心を鷲づかみにされました。ついでに言うと、効果音も音楽も、驚くほどの高音質で収録されています。びっくりしました。

 原作とはリンさんの描き方が変わっていました。たぶん本作を子供に見せても大丈夫なように配慮したのでしょうが、これはこれで、よかったと思います。特に、序盤の座敷童とリンさんを絡めるなど、よいアイデアだったのではないでしょうか。

 エンドロールには、リンさんも含め、ある仕掛けが施されており、私も含め、観客のほとんどはここで涙腺大決壊! やられてしまいました。本作のテーマが、タイトルの意味が、しみじみと心に染み渡り、心の底から観て良かったと思えるエンディングでした。

 戦争中のことを描いた作品ですが、テーマは、タイトルに示されたとおり、自分の居場所をどこに見つけるかという、たいへん普遍的なものです。その普遍的なテーマを、細かなエピソードの積み重ねで描くことに成功している希有な作品となっています。登場人物たちは、空襲や原爆など、様々な困難を経験するのですが、それは今を生きる我々にも、種類や形は違うだろうけれども、きっと同じように襲ってくるものでしょう。そういった困難の中で、どうやって自分の居場所を見つけていくか。

 個人的には、今年一番の傑作だと感じています。

 

 

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2016/11/13

佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」感想

  「一瞬の風になれ」で有名になった佐藤多佳子氏の新作です。

 文体がすべて主人公の一人称、今時若者の口語で書かれているので、年寄りは慣れるまでに少し時間はかかりますが、大丈夫、慣れます(笑)。ラジオネタが次々出てきて、ラジオ聴かない身には何のことやら状態が続きますが、大丈夫、慣れます(笑)。とはいえ、カンバーバッジが出てきた時には「あ、知ってるネタ出た」ちょっと嬉しかったりしました。

 今回の主人公たちの設定は深夜ラジオリスナー。「オールナイトニッポン」に投降する常連さん。通称「職人」。 お互いラジオネームは知っていて、お互い「すげえオレ的ヒーローな職人」尊敬してて、そんな彼ら彼女らが思わぬところでリアルに出会う。それが夜のコンビニ。「明るい夜に出かけて」というタイトルが、後半でしみじみと心に染み渡ります。

 あらすじをざっくり紹介すると、ちょっと変わったキャラを持った登場人物たちが、よってたかってメンヘラな主人公を徐々に社会復帰させていくという、それだけなんです。でもその、ちょっと変わったキャラの登場人物たちが、後半になればなるほど、すごく愛おしくなってきます。才能あるのに見た目残念な女子高生、最高! でも個人的にはコンビニ店長兄が一番印象に残りました。毎日新聞朝刊の四コママンガ「桜田です!」に出てくる双子の先生とかぶってしまって(笑)。

 世の中の主流とは無関係に、ひっそりと、自分の居場所を見つけて生きていく。「デートをしたいとかじゃなくて、デートをする人たちが勝ちという世の中がなんとかならねえかな」・・・そんな若者を書かせたら、佐藤多佳子氏は相変わらず無敵だなあと感じました。

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2016/11/06

DVD「バレエボーイズ」感想

 男の子のバレエ映画と言えば、「リトル・ダンサー」が圧倒的に有名でしょう。もうあの映画から16年もたつのですね。早いものです。

 本作は「リトル・ダンサー」と違い、ドキュメンタリー、つまり実話です。バレエを目指す3人の少年達の姿を、12歳の時から、中学を卒業し、16歳になるまで追いかけます。当然、撮影がスタートした時には、この3人(ルーカス、トルゲール、シーヴェルト)が4年後にどうなっているかなど、誰にもわからなかったと思います。映画も、シーヴェルトが途中で挫折し、バレエ教室から離れていく姿を記録するのです。そして、驚いたことに、最初一番ひ弱そうで、かつ将来を考えていなさそうなルーカスが、ロンドンの名門バレエ教室に招待され、プロの道を目指しはじめるのです。それまで仲が良かった3人の人間関係が、微妙に変化していく様子も、カメラはしっかり捉えます。ラストで、ロイヤルバレエの指導を受けて逞しく成長したルーカスの姿には、思わずじーんときます。

 こうして、少しずつ違う道を進み始める3人の姿を描いて、本作は終わりを迎えます。

 ストーリーはそんな感じの、友情あり葛藤あり挫折あり栄光ありの、ガチでリアルな路線なのですね。残酷な現実とかも、わりと淡々と描かれるので、かえって胸が痛くなります。

 本作の魅力として、その映像の美しさ、そしてダンスシーンの美しさを挙げておかなければならないでしょう。 ノルウェーの雪降る街、夜のバレエ教室の門の前、ルーカスとペアを組む女の子との会話がまたいい。お互いを信頼しあい、尊敬する気持ちが、訥々とした不器用な会話から、ひしひしと伝わってきます。

 そして随所に散りばめられる3人の少年のダンスシーン、そのシンクロ率が実に素晴らしい。

 ついでに言うと、ロイヤルバレエに招待されたルーカス少年は、実は超美形なのですね。彼のダンスシーンを見ているだけで、うっとりする女性も多いのではないかと思われます。

 美少年が頑張る姿がお好きな方には、超のつくお薦めです。

 

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