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2016/09/11

奥田英朗「向田理髪店」感想

 奥田英朗氏の新作

 北海道の田舎町苫沢で理髪店を営む主人公。

 この田舎町、おそらく夕張市がモデルとなっている。もとは炭鉱で栄えた町で、一時期映画祭が話題になり、町が次々に箱物作ったはいいが、採算がとれず財政破綻! という設定になっているからだ。

 その過疎の町へ、札幌で就職したはずの息子がUターンしてくるあたりから、ドラマが動き出す。息子は町役場の助役の提案する町おこしに賛同し、町の若者たちと勉強会を開く。そこへ親父である主人公が苦言を呈する。

「苫沢は沈みかけの船だべ。沈む船なら、親としては子供を逃がしてやりたい」(中略)「これは人で言うなら終末医療みたいなもんだべ。延命治療を施すのか、天にゆだねるのか。わたしは天にゆだねるっていうのも、選択肢としてあってもいいいんじゃねえのかって、そう思うわけです」(中略)「やりもしねえで、沈むってどうして言える」「もうやったべさ。これまで何度も。それでもだめだった」「親父たちはだめだったかもしれねえけど、おれたちはまだやってねえ」「親父たちがどう思おうが、おれたちのやる権利までは奪うなよ」

 過疎の町(ちなみに夕張は全国の自治体で人口減少率トップクラスであるらしい)を、終末医療に喩えるあたり、今の日本が10年後に避けて通れなくなる深刻な問題をテーマに選んでいるのだが、そこはエンタメ指向の強い奥田氏。苫沢町で次から次へとおこる小事件で、目先を変えて読者を楽しませてくれる。それは例えば、中国から花嫁が来て、町のみんなが一目見ようとうろうろしたり、新装開店のスナックの魅力的なママさんに、町の男達がみなメロメロになったり。

 意地悪な見方をすれば、過疎と高齢化の問題から、無意識に目をそらそうとしているようにも感じられる。この問題に、今のところ皆が納得できるような解決策はないからだ。

 個人的には、西行法師のように「願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ(願いがかなうのなら、春の桜の花の下で死にたいものだ。二月の満月、お釈迦様がなくなったのと同じ日に)」生前の予告通りの日に死んでいけたら、さぞかし幸せな人生であろうとは思う。 

 おそらく鎌倉時代には、人は自分で死期をコントロールしていたのではなかろうかと思われる。

 10年後の日本が、果たしてどのような終末医療を是とするのか。これはまさしく私にとって、他人事ではない問題なのである。

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