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2016/09/04

長嶋有「三の隣は五号室」感想

 芥川賞作家さんの新作です。

 芥川賞作家さんですが、文体に堅苦しいところはなく、むしろ作風はどこかのほほんとした雰囲気があり、本書もあちこちにペーソスというか、作者の個人的な趣味というか、微妙な笑いの場面があります。

 いくつか例を。

P43「そのガラガラ声で『不思議時空に引きずり込め!』って言ってみてくださいよ」

P56「睡眠と風邪薬との間の効き目の差は、マクラーレン・ホンダとミナルディ・コスワース間の周回遅れくらいある。」

P56「昔読んだ『21エモン』のホテルギャラクシーとつづれ屋旅館の関係みたいだ。」

 これらのギャグは、いったい読者の年齢層をどのあたりに設定して書いているのでしょう(笑)。30歳よりも若い世代には、絶対わからないネタばかり。

 ストーリーは、藤岡荘五号室の住人の話です。ただし、1966年から2016年まで、13人が入れ替わりこの部屋を借りて住むのです。そして、ガスのホースをどうするかとか、テレビのアンテナをどうするかとか、一人暮らしで風邪を引いて寝込んだ時にどうするかとか、アパートに住む上で不可避な、同じ問題を、それぞれの時代の住人がどう対応したかが書いてあるわけです。で、人が変われば当然対処法もそれぞれ違うわけです。そこに、一人一人の個性がくっきりと浮かび上がってくる。すると、知らない間にどの登場人物もいとおしくてたまらなくなるのです。

 ことさらにドラマチックな事件とか、お涙頂戴的な展開とかは、ないのです。そこはさすが芥川賞作家さん、抑制が効いています。だから、じわりと効いてくる。

 一人暮らしをしたことのある人は必読の一冊です。

 

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