« BD「ザ・ウォーク」感想 | トップページ | 長嶋有「三の隣は五号室」感想 »

2016/08/28

天川栄人「ノベルダムと本の虫」感想

 新人さんの本である。ジャンルとしてはSFファンタジー プラス 若干のミステリー要素。恋愛要素はごくわずか。随所に挿入されたイラストを見ると、ラノベ系かと思ってしまう。電車の中で50過ぎのオヤジが開いて読むには、こっぱずかしい装丁なのだ。実際、角川ビーンズ大賞受賞作であるらしい。角川ビーンズ文庫は立派なラノベ系である。それなのに、本書の判型は縦19センチ、横13センチと一般書扱い。おそらく作者の発想のあまりの斬新さが一つ、ラノベ系の本やアニメやゲームの世界に引きこもりがちな二次元安住民に対する自戒が一つ。この二点が、ラノベ系として出版するにはあまりにももったいないと、編集者、出版社が考えたからではなかろうか? (単にラノベ系に必須の恋愛要素やお色気要素が少ないからかもしれぬが・・・)

 まず作者の発想の斬新さについてだが、戦争を放棄した永世中立国ノベルダムが、独自のノベルエンジンでエネルギーを手に入れているという設定がすごい。月の光を溶かし込んで作った月光インキで印刷された本の、任意の一行を、同じく月光インキの入った万年筆でなぞると、その行が数秒間実体化する。たとえば、「女王ソレイユの笑顔が眩く輝いた」という一行をなぞれば、ぽぽぽんと光の群れが現れ、暗闇を照らすといった具合だ。おもしろいのは、こうして実体化させると、引用部分の文字は本から消え、白抜けができるという設定。回復には月光と時間が必要。つまり、いい気になって引用しすぎると、肝心なときに引用する部分が残っていないという縛りがある! という所がよい。もしこの能力が無限に使えたなら、さぞかしつまらない話になったことだろう。

 ちなみにこのノベルエンジンは、内燃機関にも応用されていて、例えばタクシーの排気ガスと思えるものは、実は月光インキで引用し燃焼させた文字の燃えカスだったりする。「強烈な拳」だとか「会心の一撃」だとかいう燃えやすい文字が、きらめいては消えていく様子は、実写化したらさぞかし面白いだろう。針ぽたの魔法シーンよりよっぽど絵になるような気がする。

 次に二次元安住民への自戒について。

 本書には読書のよい所と、悪い所が書かれている。

 悪い所は、現実世界で嫌なことや困難なことがあったら、それに立ち向かおうとせず、ひたすら本の中の虚構の世界に逃げ込んでしまう所。二次元オタクにとって、かなりイタイ所を突かれているのではなかろうか。「エヴァンゲリオン」でシンジ君に「逃げちゃ駄目よ」「逃げてばかりいると、いざという時に何にも出来ない男になっちゃうわよ」と言い続けるミサトさんを思いだす。

 逆に読書のよい所は、自分の知らない世界や他人の人生を体験できること。そうやって体験したことを、今度は自分の人生を切り拓く時に生かす。自分の現実の人生と戦うための武器とすることができる所。

 ここまで書くと、この小説のヒロインがどのような成長をするか、大方予測ができるだろう。その点では、実に健康的でまっとうな小説なのだ。本好きの、でも現実世界がちょっと苦手な少年少女に、素直な気持ちでお薦めできる一冊である。

 あと一点。

 戦争を放棄した永世中立国ノベルダムに対しての批判が、なかなかに手厳しい。

「戦地から巻き上げた金でこの国は回ってる」「自分たちだけこの安全な場所に避難して」「戦争には無視を決め込んで今でも夢(本)を売り続けている」

 まるで、不戦条約をかざして「外国の若い兵士が私たちを守るために死ぬのは構わないが、私たちが他国の兵士を殺したり、他国の兵士に殺されたりするのはイヤだ」と言いつつ、他国に商品を売りまくり繁栄を続けるどこかの国を揶揄しているようにも読めるからだ。イッタイなあぁ・・・。

|

« BD「ザ・ウォーク」感想 | トップページ | 長嶋有「三の隣は五号室」感想 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49249/64123922

この記事へのトラックバック一覧です: 天川栄人「ノベルダムと本の虫」感想:

« BD「ザ・ウォーク」感想 | トップページ | 長嶋有「三の隣は五号室」感想 »