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2016/07/18

BD「イミテーション・ゲーム」感想

 サブタイトルは「エニグマと天才数学者の秘密」

 第二次世界大戦中、ドイツが開発したエニグマが送信する暗号を解読するために、イギリスの数学者アラン・チューリングが、今のコンピュータの祖先とも言えるマシーンを開発する、という実話をベースにした映画。

 大きく三つのテーマがある。

 一つ目、大勢の命を救うために、目の前の命を見殺しにすることの是非。

 最近、自動車の自動運転システムが、同じような命題で苦しんでいるようですね。目の前に飛び出してきた人間をよけるためにハンドルを切ったら、その横にいる沢山の人間を轢いてしまう。その時にコンピュータはどんな判断をするようプログラミングすればよいのか?

 ドイツにエニグマの解読を悟られないようにするため、解読した情報のどれを軍部に知らせ、どれを伏せておくか、その取捨選択を、統計学を使って行うというのだからすごい。これ、少年ジャンプの主人公なら、間違いなく、今目の前で危険にさらされている仲間を救い、結果としてその十倍以上の同胞の命を危険にさらすだろう。わかっていても、人間は目の前の不幸を放っておけない生物だからだ。だから、本作のように大勢の国民の命を救う代償として、目の前の救える命を見殺しにするという決断は、一生残るものすごいトラウマとなるだろう。それを、本当にアランがやったのだろうか? それは人の心が読めない人間だから、平気でできたということなのか? それとも実際は、別の誰かの命令なのか? そのあたり、本作に対する疑問ではあった。

 二つ目は、同性愛者への差別と偏見の解消。

 これもつい最近、ローマ法王が、「キリスト教は同性愛者に謝罪すべき」とのたまったばかり。第二次大戦中は、同性愛は犯罪者として服役していた、というのだから恐ろしい。2013年にエリザベス女王が、亡きアラン・チューリングへの謝罪の言葉を述べたというが、それはアランの死後何十年もたってからという事実が、実に重く悲しい。

 三つ目、自閉症的傾向にある者への理解。

 何気ない会話の空気が読めないアラン。神は得てしてそういう人物に、飛び抜けた才能を与える。アスペルガー症候群である。リンゴとかサンドイッチとか、食べ物を使った演出が、彼らの特性の理解に実に効果的。

 そのほかにも女性の社会進出への理解とか、結構テーマ盛りだくさんな映画である。

 役者はなんと言ってもアランを演じたカンバーバッジが素晴らしい。ホームズを演じた時にも感じたが、アスペルガーっぽさが、同性愛者っぽさが、とにかく半端ない。すごい演技力である。少年期に苛烈ないじめを受けた彼のセリフ「人はなぜ暴力を好むのか? それは気持ちがいいからだ」が観る者に突き刺さる。

 次にアランの恋人ジョーンを演じるキーラ・ナイトレイ。パイレーツ・オブ・カリビアンの頃から随分と年月も過ぎ、肌の艶もすっかり・・・になってしまったが、本作ではいくつもの名台詞を担当するおいしい役どころを、その強い目力で、堂々と演じており、大変魅力的だった。

 

 ちなみに名台詞とは、

「誰も想像しないような人物が、想像できない偉業をなしとげる」というマイノリティへの賛辞。

「あなたは完璧な夫じゃないし、私も完璧な妻になる気はないわ 仕事するの あなたも仕事 そして一緒に暮らす 心を通わせながら 普通の結婚より素晴らしい」という男女共同参画宣言。

「今日、私は消滅したかもしれない街の電車に乗った あなたが救った街よ 死んでいたかもしれない男から切符を買った あなたが救った人よ あなたが普通じゃないから、世界はこんなにすばらしい」というアスペルガー症候群に対する深い理解と、誰も知らないアランの業績を、私はちゃんと知っている・・・という、実に泣けるセリフ(つい最近イギリスが情報公開するまで、彼の暗号解読によって、おそらく1400万の人命が救われ、終戦が2年早まったであろうことなど、誰も知らなかった)。

 名作である。

 

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