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2016/06/19

市川朔久子「ABC! 曙第二中学校放送部」感想

 今年の読書感想文コンクール課題図書第3弾!

 ふつうの青春小説です。

 主人公たちが、あまりメジャーではない世界でがんばる設定の話が流行しだして、随分になります。森絵都の「DIVE!!」(飛び込み)とか、佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」(陸上)とか・・・。「ちはやふる」も競技かるたという、あまりメジャーではない世界のお話でした。

 普通の人が知らない世界なので、ルールとか用具とか戦術とか、そういったディティールを語るだけで、読者を惹きつけることができるのが、このジャンルの長所。

 本作もその流れで、主人公たちが所属する中学校の放送部が、普段どんな練習をしているのか、どんなコンクールがあって、どういった部分で勝敗が決まるのか、細かく丁寧に描いてあり、読んだ後、「そうかこういう世界もあるのか」と、一つ勉強になったような、自分の世界が広がったような、お得な気持ちになれます。

 とはいえ、このパターンも何度も使い回されているので、どこかで過去の名作たちとの差別化が図られないと、本作の存在意義がなくなってしまいます。

 ああそれなのに、本作は、美人の転校生しかも性格に難あり! が、起承転結の起となっており、「ああまたそのパターンかよ」的な気分になってしまいます。そして転校生に触発された主人公が試練に立ち向かい、成長し、最後にちょっとだけ恋愛要素をプラス! なんてステレオタイプな!

 あと、作中にすごく嫌な性格の教師が出てきます。若い先生をメンタル的に追い込む様子が描かれますが、実際にはこんな中間管理職は存在しません。だって、先生が心の病で倒れたら、その先生の分の仕事が他の先生達に回ってきます。困るのは自分です。自分で自分の首締めるようなこと、誰もしません。このあたり、リアリティーに欠けています。筆者は、過去のテレビの学園ドラマの影響を受けすぎているのでは?

 さらに読んでいて困ったのが、会話シーン。3人以上の会話で、主語が省略されるのはよくあることなのですが、その場合、誰のセリフかがわかるように工夫するのが一般的な書き方です。本作はそのあたりかなり曖昧な部分が多く、「これ誰?」・・・しばしば混乱しました。普通こういう部分は編集者が手を入れると思うのですが、一体どうしたんでしょう?

 これで感想文書くとなると、どうしても過去の名作と同じパターンの、ありきたりなものになってしまうのでは? 今年の課題図書3冊の中で、もっとも入賞を狙いにくい作品だと思います。

 「曙第二中学校」という校名の由来が、校庭に立つ「曙杉」にあるのですが、これはメタセコイアのこと。絶滅したと思われていたのが、中国四川省で発見され、挿し木によっていまや日本のいたるところで増殖中! よく「めっちゃせこいヤツ」などという不名誉な親父ギャグに使われています。20~30メートルの高さにまっすぐそびえ立ち、秋にはオレンジ色に紅葉するこの曙杉を、本作のテーマとどうからませて捉えるか。そのあたりは一応抑えておいてほしい所です。

 読書感想文で入賞狙うには難しい本ですが、こういったジャンルが好きな人なら、楽しく読めると思います。

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