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2016/03/21

米澤穂信「王とサーカス」感想

 ジャンル的にはミステリーサスペンスだろうと思って読んだんですが、ミステリー要素は少なく、社会派でした。

 しかもテーマが新聞・雑誌記者の存在理由というやつ。

「なぜそれを世界に向けて知らせなければならないのだ」「自分にふりかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。恐ろしい映像を見たり、記事を読んだりした者は言うだろう。考えさせられた、と。」

 小説の中盤で、ヒロインは自分の仕事の意義を質問されるが、答えることができず、失意の底に沈むのです。本作のタイトル「王とサーカス」は、このシーンに深く関わりがあります。

 ヒロインはもがき苦しみながら、自分なりの答えを見つける。そういう展開になっています。そこに派手な大立ちまわり的ドラマはありません。ミステリー部分もあることはありますが、ほとんどの読者は、途中で犯人の正体がわかることでしょう。わかりやすいですから(笑)。

 本作の舞台となったネパールには、30年以上前に行ったことがあります。若い男が「ホンモノ! ホンモノ!」と、カタコトの日本語で、アンモナイトの化石を両手に持って売りにきたのを覚えています。私はアンモナイトは買わず、かわりにアルパカの帽子を買いました。本作のヒロインもまた、アンモナイトは買わず、かわりに別のものを買います。そういうわけで、やたら感情移入して読んでしまいました(笑)。

 また、本作を読んで、父の昔話を思いだしました。父は昔、タイで技術指導をしていました。タイの隣国はミャンマー。その国境でのことを、次のように話してくれたのです。

 国境には大きな川が流れていて、そこに橋がかかっている。橋の上ではミャンマーの男たちが土産物を売っている。それを買ってタイに戻ろうとすると、橋の見張りをしている軍人が「税金を払え」と言う。「わかった、そのかわり領収書をくれ」と言うと「ちょっと待て、ボスと相談してくる」しばらく待っていると「領収書なしなら○○バーツ、領収書ありなら○○○バーツだ」・・・つまり、領収書なしのほうが半額くらいなんだが、これは勿論政府には納めず、自分たちのポケットに入れるからなんだな。軍隊の連中はこうやって自分たちで金を稼いでいるんだ。

 もう一つ。

 橋の上の土産物の中には、大麻の樹脂を固めたものもある。なにしろ、ケシはミャンマーでは普通に自生しているからな。で、「これ、どうしろというんだ」と聞くと、「これを持ってタイに入国すると捕まる。だからこの橋の上で吸えばいい。ここはタイじゃないからな」・・・つまり、橋の上はタイでもミャンマーでもないから法には触れないというんだな。

 以上、この「王とサーカス」という小説の内容と、微妙に関わりのある話なので、紹介しました。

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