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2016/03/13

津村記久子「この世にたやすい仕事はない」感想

  芥川賞作家さんの新作。  以前、この作家さんの「まともな家の子供はいない」という本を紹介したことがある。「この世にたやすい仕事はない」と、なんだかタイトルのリズム感が似ている(笑)。

 タイトルから村上龍氏の「13歳のハローワーク」みたいに、いろんな仕事のいいところ、しんんどいところを紹介した本かなと思ってたのだが、まったく違った。

 主人公は30半ばの女性。職場で何かあったらしく、10年以上勤めていたのに退職してしまい、職安で「コラーゲンの抽出を見張るような仕事」というのを希望。変化の少ない仕事から始めて少しずつ社会復帰しようというのだ。しかし、いろいろと心穏やかにならぬ事件が職場で持ち上がり、結局合計5回も職を変えるというストーリー展開。ちなみに彼女がどんな仕事に就いたかがわかるように、目次を紹介しよう。

「第1話 みはりのしごと」

「第2話 バスのアナウンスのしごと」

「第3話 おかきの袋のしごと」

「第4話 路地を訪ねるしごと」

「第5話 大きな森の小屋での簡単なしごと」

 第1話は、、特定の個人を監視カメラでひたすら監視するお仕事。ほんとにこんな仕事あるのか? と言いたくなる。ひたすら人のプライバシーを覗くのだから、読んでいて当然ネガティブな気持ちになるし、主人公ももちろんネガティブな気持ちになる。職を変えるのも当然かなと思う。こんな調子で、この世に「コラーゲンの抽出を見張るような」楽な仕事なんかない! という短編を五つ並べて、「だから甘えるな」みたいな展開にするのかと思っていた。

 だが、第2話あたりから、本書は少々雰囲気が変わるのだ。どんな仕事にもそれなりにやりがいを感じる部分があるし、自分の能力を生かせる部分もある・・・という展開に。

 そして最終話、主人公は自分と同じく、職場で力尽きて戦線離脱した中年男を救い出す・・・という展開になる。そしてそれはとりもなおさず、自分自身を救い出すことにもつながるのだ。この、じわじわと主人公が再生していく過程から来る温かい感動が、なんとも言えない。よい小説である。

 ちなみに、「バスのアナウンスのしごと」も「おかきの袋のしごと」も、転職するんだったらこんな仕事がいいなあ・・・と本気で思った自分がいたりする(笑)。

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