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2016/03/07

BD「THE GIVER」感想

 原作は世界的に売れているアメリカの児童文学らしいが、未読。

 舞台である「コミュニティー」は、犯罪や飢餓、貧困のない近未来世界。一見ユートピアのように見えるが、それは人間が本来持つ、欲望や憎悪などの感情を抑制する管理社会だからこそ成り立つ社会でもある。毎朝住民達に強制的に注射される薬が、彼らの感情を抑制する。そうすることで成り立っている社会・・・という設定。社会主義を揶揄したかのような世界で、その不自然さに何の疑問も持たずに育った主人公ジョナスが、いびつさに気づき、世界を変えようとするという、どこかで読んだことのあるようなパターンである。

 映像は最初、白黒でスタートし、ジョナスが、人間の感情を一つ手に入れるたびに、色が一色ずつ加わっていくという、既視感ありありの演出。最初に復活する色が「赤」というのも、この手の演出ではよくあるパターン。ただし、突然挿入される、総天然色カラーの映像の美しさには、かなりクラクラした。

 一見平和な世界が、実はいびつなルールで縛られた世界であるという事実に、見ている者がだんだん気付いていき、ゾッとするという構成は、「わたしを離さないで」に通じるところがある。

 映像だけではなく、音楽の美しさに気付くシーンもあるのだが、この時のピアノの旋律がことのほか美しい。ストーリー展開はありきたりだが、映像と音楽の美しさには、はっとさせられる。

 また、主人公の名前が「ジョナス」なのは、「ジョイン アス」=「我らに続け」という意味を暗示しているのかと思ったり。

 「愛の賛歌」がテーマのようだが、そもそも「愛」とは何なのか。「他人の幸せを願う気持ち」なのか、はたまた「自分の欲望をかなえたい(性欲など)という本能」なのか、よくわからないまま話が進む。人類の生き残りを考えるなら、本作のような歪んだ社会主義社会が必要かもしれないし、個人の幸せを第一に考えるなら、主人公ジョナスの選んだ方向になるだろう。そのあたり、登場人物がもっと両者の間で葛藤してくれたら、名作になれたのではないだろうか。

 そもそもジョナスが愛を自覚する相手である恋人役のオデヤ・ラッシュなのだが・・・。BDのパッケージ写真を見ると美人に見える。だが、実際に映画を見ると、どこにでもいそうな普通の女の子。ジョナスが熱愛する対象として、かなり役不足に感じてしまう。

 それなのに、あまりにあっさりと「愛がすべてだ」みたいな方向に話が進むので、「愛」を語れば全て許されるの? 本当にこの世で「愛」が一番なの? などどへそ曲がりな感想を持ってしまうのだった。 

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