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2016/02/06

深緑野分「戦場のコックたち」感想

 普通こういうタイトルの本だったら、「ああ、主人公が心のこもったおいしい料理で、客や友人の傷ついた心を癒やす系ね」とか思うでしょう。「天皇の料理番」「信長のシェフ」「南極料理人」みたいな話だろうと・・・。

 全然違いました。主人公はコックですが、だれも彼の料理で心を癒やされたりしません。そもそも彼が料理するシーンはほとんどなく、どちらかというと、携帯食料をみんなに配給する仕事がメインです。

 では一体どういう小説なのか? 第二次大戦末期、新兵に志願しノルマンディー上陸作戦に参加した主人公の戦友が、頭脳明晰な若者で、戦場で起こる奇妙な事件を次々に解決していくという推理小説なのです。

 ただしそれは表向き。本書の真のテーマは、人種差別、特に戦争という極限状態で発生する差別にどう向き合えばいいのか、というなかなかに重いものなのです。決してエンタテイメント小説ではありません。

 例えば主人公は少年時代に黒人居住区に差別的な落書きをして、それを祖母にしかられた記憶がずっと脳裏にひっかかっている。例えば戦友達はヒスパニック系だったりユダヤ系だったり黒人だったり、雑多な人種で構成されていて、それが次々に戦死していく。例えば主人公達は、つかの間の休暇で従軍慰安婦たちに安らぎを求めるようになり、やがてそれだけでは物足りなくなり、戦場でのヒリヒリした極限状態を渇望するようになる。例えば、ヒトラーの死後、ドイツの山奥でユダヤ人の収容所を発見し、そこで大勢の餓死死体を目撃する。例えば、見た目に麗しいアーリア人(ゲルマン人)のヒトラー・ユーゲントの若者が投降してくるのを受け入れる・・・。

 人権問題てんこ盛りです。だから読後はそれがずっしりと胸にきます。消化不良おこしそうです。

 タイトルにだまされて読むことのないよう、覚悟して本書をお取りください。

 なお本書は、今年上半期の直木賞候補だったのですが、残念ながら・・・。コック本! と思わせて実は推理小説! と思わせて実は人権啓発本!・・・という、いろいろ詰め込みすぎて、かえって印象が散漫になってしまったのが評価に影響したのではないでしょうか。

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