恒川光太郎「ヘブンメイカー」感想
「スタープレイヤー」シリーズ第二作。
前作は35歳イケてない中年女性・斉藤夕月が、自分の能力をさんざん自分の欲望のために使ったのち、徐々に社会のために使うように変化するまでを描きました。本作は、佐伯逸輝という青年が主人公。最初は、死んでしまった彼女を蘇らせ、二人で青春を謳歌するための舞台を作るために能力を使います。ところがその恋愛ごっこが破綻したあたりから、徐々に、いびつな身分差別がはびこる社会制度を変えるために能力を使うようになります。つまりストーリー展開は、おおざっぱに言えば一作目と同じ。違いは、もう一人の主人公・鐘松孝平を用意したところです。
この青年、鐘松孝平は、現実世界では交通事故で死んでしまっているわけですが、佐伯逸輝が作り出した「ヘブン」という世界で復活し、やがて他の住民と協力して一つの国家を作りだします。それまでバラバラに生活していた人々が、各自自分にできることを次々と自己申告し、少しずつ文明が萌芽していくシーンは、読んでいて心がワクワクしました。特に、新聞第一号が刷り上がり、それを手にしたメンバーが「これ将来きっとプレミアつく」みたいなことを言うあたり、歴史の記念すべき第一歩が刻まれる瞬間を見たような気がして、結構感動的です。
こうして「ヘブン」世界を作る方と、「ヘブン」世界に呼び出され、そこで新たな国家を作る方の、二方面からストーリーが語られる。それを一章ごとに交互に、という構成が、本作の重要なポイントだと思います。読者は、いつかこの両者の接点がどこかに現れるのだろうという予感とともに本書を読む進めるわけです。ところが、予想外の接点が語られたりして、なかなかに楽しませてくれるのです。
また、佐伯逸輝とその従者レビや、案内人プログラム小百合との関係は、どことなく小野不由美「十二国記」の陽子とジョウユウの雰囲気を感じさせます。「全て、このレビが見ております」のあたりとか特に。ああ、懐かしいなあ。
前作とのもう一つの違いは、十回分の能力を持つ主人公が、本作ですべてそれを使い切るところ。斉藤夕月は、あと何回か残した状態で話が終わりましたから。そうやって10回分の能力を使い切り、もとの世界に戻った佐伯逸輝が、自分の行いにどんな思いを抱いたか、ぜひ本書を取って、確かめてください。
一作目の主人公、斉藤夕月が、ほんの少しだけ登場するのも、この手の作品のお約束と言えばお約束。続編が今から楽しみです。
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