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2015/11/29

ケヴィン・ウイルソン「地球の中心までトンネルを掘る」感想

 昔、「地球の中心で愛を・・・」という、いやに長いタイトルの本に手を出してしまい、心の底から後悔したことがある。それ以来、長いタイトルの小説には、なるべく手を出さないようにしてきたのだが、今回久々に手に取ってみた。

 結論・・・読んで良かった。大当たりなのである。

 短編集なのだが、どの話も、あざとい設定や展開を用意してドラマチックに盛り上げようとしているわけではない。いや設定は確かに奇抜なのだが、逆に展開はどこまでも地味なのだ。それなのに、登場人物の一人一人がいとおしくてならない。どの主人公も、何か大切なものが欠けていて、普通の人の暮らしができない。普通の人と、普通の会話ができない。どこかずれてしまっている人たちばかりが描かれる。表題作の主人公なんか、庭に穴掘って、そこからひたすら横方向にトンネルを伸ばしていって、そうやってひたすら現実逃避している。

 「ゴー・ファイト・ウィン」のヒロインであるペニーに至っては、容色は人並み以上。いやかなり上の部類だろう。チアリーダーとしての素質もトップクラス。それなのに、どこをどうこじらせてしまったのか、趣味はプラモ造りなのである。チアリーダーのチームメイトたちは、ペニーのために彼氏を用意し、二人きりの時間を作るお膳立てまでしてくれたりして、普通の女子高生の青春を謳歌するチャンスはゴロゴロ転がっているのに、ペニーはとっとと帰ってプラモ造りに没頭してしまうのである。そうして、近所のちょっと訳ありの、年下の男の子とくっついてしまう。

 そして、そんな彼ら彼女らを、一歩離れたところから見守る家族が描かれる。

 そうしてそこに、作者の目線が、彼ら、彼女らに、ひたすら優しく降り注がれているのを感じるのだ。だから、決して人並みの幸せは手に入らないであろう彼らが、いとおしくてたまらなくなる。

 切ない短編集なのである。

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