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2015/08/09

ケン・リョウ「紙の動物園」感想

 筆者は中国生まれのアメリカ育ち。
 本書は表題作を含む十五の短編集である。
 手に持つと、ペーパーバックで安っぽい装丁のため、たいした本ではないだろうと高をくくりそうになるかもしれない。だが表題作「紙の動物園」は、 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いたSF小説なのだ。

 ページをめくると、まず一作目が「紙の動物園」なのだが、いきなりがつんとやられてしまった。
 少年の母は、包装紙を折りたたんでいろんな動物を創る。虎、山羊、鹿、水牛・・・。なるほど中国にも折り紙という遊びの文化があるらしい。しかも、日本の折り紙よりもなんだかリアルっぽい。ところが2ページ目の「父さんはカタログで母さんを選んだ」に軽く混乱した。え? そういう話なの? 時代設定は1973年のアメリカ。「買われていくために自分をカタログに載せるような女性は、どんな女性なのか?」高校生になった少年は、この話を父から聞き、母を軽蔑するようになる。だが、少年が十歳のころから既にその兆しはあったのだ。
「それにぼくはほんとうのおもちゃがほしいんだ」
 近所に住む男の子はスターウォーズのアクションフィギュア、オビ=ワン・ケノービを持っている。ライトセーバーを光らせ、「フォースを使え」としゃべる奴だ。
 少年が強烈に母親を拒絶する描写が哀しい。
 終盤、少年は母の手紙を読む。この時「手紙の言葉が体に沁みこんでくるのを感じた。皮膚を通り、骨を通って、心臓をぎゅっとつかんできた」と書いてあるものだから、こちらも心の準備はした。だがその準備は、まったく無駄だった。いやホント、ハンカチ用意して読んでください。

 さらに二作目の「もののあはれ」 これもヒューゴー賞を受賞しているのだが、主人公は日本の久留米に住む少年なのである。小惑星が地球に落下し、人類が滅亡するその前に、一部の人間が宇宙に脱出するという、昔からよくある話なのだが、随所に日本人のメンタリティが描かれている点が特徴だ。
 東日本大震災の時に日本人がとった非常に抑制のきいた行動(暴動や略奪行為がほとんど発生せず、救援物資もきちんと並んで受け取り、黙っていても皆が子どもや老人を優先させるなど)が、当時世界を驚かせたようだが、本作では小惑星落下という天災に対して、主人公たちはパニックに陥ることなく、同じように抑制のきいた行動をとる。運命を静かに受け入れ、その上で自分にできることは何かを冷静に考えて行動する。いやここまで日本人すごくないだろ? 作者日本人を買いかぶりすぎだよとか思いながらも、「やがて死ぬけしきは見えず蝉の声」とか「蒲公英のうつむきたりし月の夜」とか、随所に挿入される俳句を読んでいると、なるほど、これが日本人の感性であるのだなあと思ったりもするのだ。

 こんなSF小説、初めてである。

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