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2015/05/24

デボラ・ホプキンソン「ブロード街の12日間」感想

 今年の読書感想文コンクール課題図書です。

 フィクションとノンフィクションの中間を行くような作品です。1854年、コレラの感染ルートがまだわからなかった時代。ロンドンで危うく大規模感染流行(パンデミック)になりかけた所を、スノウ博士が発生源を突き止めて食い止めたという実話がベース。両親のない不遇な境遇の少年が博士の助手となり、発生源究明のため奔走し、ロンドン市民を救ったという嘘話がこれに乗っかります。

 各章の扉には、実際にロンドンでコレラが発生した時の記事や、スノウ博士の論文の一部が載っており、この話が、実話を元にしたフィクションだということをひしひしと読者に伝えてきます。

 主人公のイール少年の知人が、コレラにかかり目の前でのたうち苦しんでいる。てっきりスノウ博士が治療法を知っていて助けてくれると思っていたのに、博士は「コレラの治療法はないんだ」と冷たい反応。そのかわりに博士は、発生源が井戸だという仮説を立てた上で、それを証明するためのデータ収集を、地道にコツコツとやっていく。目の前で苦しんでいる患者の治療に時間とエネルギーを注ぐべきか、ロンドン市民にこれ以上感染するのを防ぐ手立てのほうに時間とエネルギーを注ぐべきか・・・。道徳の授業に使えそうな二択問題です。

 ちなみに、仮説を立て、地道にデータを収集する段階で、無闇に広範囲に手を広げたのではいつまでも答えに行き着かない。ある程度は仮説から方向性を推理して対象を絞り込むことが大事というあたり、もう一冊の課題図書「うなぎ一億年の謎を追う」と共通点が多いことにびっくり。きっと科学者にとっては、こういうやり方は当たり前なんでしょうね。

 苦言をいくつか。

 1854年当時らしいロンドンの地図が表紙裏に載っています。ストーリーの進行上、たいへん大事な地図なんですが、見てもまったくわかりません。ちゃんと日本の読者にもわかるように、日本語の表記の入った地図を別につけてください。作品中にいろんな町の名前や通りの名前が出てくるのですが、土地勘も何もない我々にはちんぷんかんぷんです。編集さんのほうで、もう少し努力してほしかったと思います。

 次に作者に苦言。登場人物があまりにも多すぎます。仕方なく登場人物一覧表を作りながら読んだのですが、50ページ読んだあたりで、15人ほども出てきます。ほとんどの中学生読者が、覚えきれないと思います。どうでもいい脇役にも、いちいち名前つけて出すのはやめてほしい。ハグジー・ハギンズとか、ジョン・ハギンズとか、主人公の境遇がひどいものであることを強調するために、無理矢理性格悪い人を多数登場させてませんか? しかも彼らの役割は本作のテーマと外れてますし。後の重要な伏線に絡んでくる人物というわけでもないし。

 編集さんも、日本語版の地図と一緒に、登場人物一覧表くらい(ネタバレ防止のために、中盤までの人物でいいから)つけてくれたら、まだ読みやすかっただろうに。 

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