« BD「フューリー」感想 | トップページ | DVD「コーヒーをめぐる冒険」感想 »

2015/04/04

上田早夕里「薫香のカナピウム」感想

近未来SF小説。

 ネタバレします。ご注意ください。

ネタバレ注意報! ネタバレ注意報! ネタバレ注意報! ネタバレ注意報!

 メデューサ微粒子という、生物、非生物を問わず分解し、砂にしてしまうナノスケールの謎の微粒子が、地球上に拡散。人類は地上を捨て、軌道エレベータに乗って宇宙へ逃げる・・・という壮大なスケールの設定。やがて一部の人間は、微粒子の被害が比較的少なかった赤道付近に戻り、生活を始める。その際、遺伝子操作により、体のサイズを半分にまで縮小し、赤道の密林の中で樹上生活を送れるようにする。本作のヒロインはその一族の一人。

 謎の微粒子から逃れるため、人類は宇宙へ避難した、という設定だが、これは原発事故でまき散らされた放射性物質から避難しなければならなかった東北を念頭に書いていると考えることもできるし、エボラ出血熱の災禍からいまだに逃れることができないアフリカを念頭に書いているとも思われる。人類が生き延びるためには、放射線やエボラウイルスに耐性のある体を、遺伝子操作により人為的に作り出すしかない。つまり、本作のような近未来は、十分にあり得るのだ。

 ヒロインが人類と袂を分かち、樹上生活を再開するところで本作は終わる。つまり、科学技術を使っての安全で快適な生活よりも、樹上での不便な、だが自由な生活を選ぶ。だから余計な干渉はしないでくれというわけだ。

 果たして将来の人類は、ヒロインのように、不便な自由を選ぶほどの意志の強さを持っているだろうか? 我々はと言えば、地球温暖化が目に見えて進行しているのに、夏になるとエアコンの恩恵に浴することを躊躇わない。当然のように電力需要が増加→化石燃料の消費による二酸化炭素の増加→地球温暖化の加速! という悪循環から逃れることができていない。そんな現状を見ると、とてもこのヒロインのような選択はできないような気がする。

 今の快適な文明生活を送り続けた先に一体何があるか、その警鐘を鳴らすSF小説である。

|

« BD「フューリー」感想 | トップページ | DVD「コーヒーをめぐる冒険」感想 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49249/61388880

この記事へのトラックバック一覧です: 上田早夕里「薫香のカナピウム」感想:

« BD「フューリー」感想 | トップページ | DVD「コーヒーをめぐる冒険」感想 »