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2015/03/08

万城目学「悟浄出立」感想

 本の帯には「脇役が主役になる」とあり、なるほど西遊記のカッパが大活躍する話かと思ったら、そうではなかった。「思ってたんと違う」というやつだ。

 脇役が主役になる話は、実は日本のアニメの中に昔から多数存在したりする。たとえば「宇宙戦艦ヤマト」では、脇役のアナライザーが森雪にふられるストーリーが、第16話「ビーメラ星地下牢の死刑囚」で語られる。4クール(48回)かけて放送されるアニメは、脇役がメインのドラマをちょくちょく間に挟まないと1年分もたないのだ(ちなみに「ヤマト」は裏番組「ハイジ」に視聴率で敗れ、半年2クールで放送が打ち切られたのは有名な話)。

 さて本書だが、どちらかというと、主に語られるのは、悟浄ではなくブタの八戒の身の上の方だ。天界では天才軍師として有名だった八戒。常に相手の五手先、十手先を読んで策を立てる用意周到な男が、下界ではなぜ毎回あっさりと妖魔の計略にひっかかるのか、その理由が語られる。同時に、毎回妖魔の計略にひっかかる事がわかっていながら、それを積極的に回避しようとしない悟浄の心のありようと、八戒の事情を知った後の悟浄の変化ももちろん語られる。

 悪くないと思う。でも帯の惹句とはちょっと違うんじゃないか。悟浄のアクションシーンなんか一切ないですから。

 さらに本書は短編集なので、第2話以後は「李陵」「項羽と劉邦」など、有名な話のリライトが続く。中島敦も司馬遼太郎も、中学や高校の国語の教科書に取り上げられているので、読んだことがある人も多いだろう。「西遊記」はもとが冒険活劇エンタだから、本書のようなシリアスなリライトには価値がある。しかし、「李陵」や「項羽と劉邦」は、いずれも巨匠の手になる超シリアスストーリー。読者のほとんどは、その行間から、司馬遷や虞美人のドラマや心情を想像しているはず。つまり、読者が百人いれば百のサイドストーリーが存在する。名作とはそういう力を持っている。万城目氏の作は、残念ながらその中の一つ、ワンオブゼムに過ぎないように思われる。読者によっては、「そんなの虞美人じゃねえやい」とか、「私の司馬遷はそんなこと言いません」とか文句を言いたくなるのではなかろうか?

 題材の選定を間違ったというか、リライトする相手が悪かったんじゃないですか? 万城目さん! 西遊記だけで一冊書いとけばよかったのに。

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