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2015/01/18

小泉武夫「猟師の肉は腐らない」感想

 著者は発酵学と醸造学の専門家で、その道ではかなりの有名人らしい。本書を読んでいたら、横から妻が「あ、その人知ってる。発酵学で有名な人だよね。この間もNHKの料理番組に出てたよ」どうやら主婦の間でも有名らしい。 知らなかった。
 さて本書、著者の友人である義っしゃんが、福島県の山奥、八溝で猟師をしている。仕事のストレスがたまった筆者は、現世から逃れるため、くさやの干物三枚と粕取焼酎二升を持って、義っしゃんに会いに行くという所から話が始まる。
 ほとんどの描写は食べ物のことに費やされる。メニューはこんな感じだ。

1日目の夕食
くさやの干物(持参したお土産)、猪肉の燻製、岩魚の燻製と猪肉の燻製と野菜の煮込み、岩魚の甘露煮、イナゴの佃煮

2日目の朝食
焼きおにぎりと昨晩の煮込みの残り
2日目の昼食
岩魚と山女(両方とも釣ったばかり)の水音焼き(川縁で、蕗の葉でくるんで蒸し焼きにする)
2日目の夕食
山ぶどう酒の山女漬け込み、兎の灰燻し

3日目の朝食
山羊の乳、セミの串焼き
3日目の昼食
屁っこき虫の炮烙焼き、カブトムシの幼虫のあぶり焼き、
3日目の夕食
地蜂のさなぎの甘露煮、赤まむしの味噌汁、自家製納豆、地蜂の炊き込みご飯
4日目の昼食
ドジョウの蒲焼き
4日目の夕食
ドジョウ汁
5日目の朝食
山ブドウとアケビのヨーグルト風発酵食品

メインディッシュとなる肉・魚料理のほとんどが、燻製や発酵食品である。燻製はうまみが凝縮されるし、発酵食品は菌の働きによりうまみ成分が増加するしで、さぞかしおいしいんだろうなあと、よだれ垂らしながら読んだ。食べるシーンの描写ときたら、こんな風。
「瞬時に燻された猪肉の煙香が鼻孔から抜けてきて、口の中ではシコシコした歯応えが快く、そこからとても濃いうま汁がジュルジュルと湧きでてきた」
 我が家はゴーバルのハム(大手メーカーの燻液つけて干しましたなんちゃってハムとは違い、ちゃんと燻煙で燻したハム)を毎月一回届けてもらっているのだが、そこの骨付きハムを食べた時の感じがまさにこんな風。ああ、口の中がよだれでいっぱいに・・・。
 燻製は誰でもおいしく食べられると思うが、発酵食品は匂いが独特なので、それに慣れることができないと、食べられないのではないかと思う。昆虫食に関しては、エビやカニ、シャコなどの節足動物と同じと思えば平気な気がする。

 本書はさらに第二部として、二年半後、冬の山に二度目の訪問をした著者が、夏とは違う冬山の食を楽しむ話がある。主なメニューはこんな感じ。

岩魚と山女の燻製のカレー(カレールーは著者が持ち込んだお土産)、どじょう汁、野兎の炙り肉、

こうして見ると、確かにとんでもないご馳走ばかりなのだが、ややワンパターンな献立になってしまう。義っしゃんも、町でラーメン食べて感激したと言ってるし、著者お手製のカレーも大喜びされるしで、時々そういったB級グルメっぽい食べ物も食べたくなるのが、やっぱり人間だなあと。

 食べ物以外では、やはり猟犬のクマの存在が、本書の魅力をいやが上にも高めている。
秋田県と高安犬をかけあわせた猟犬なのだが、義っしゃんとのコンビっぷりが実に微笑ましい。同時に、人と犬との共存する姿にいろいろ考えさせられた。
 人はあくまでも、人の都合のよいように、猟犬として飼い慣らす。でもそこには飼い主の愛情が込められており、犬のほうも力一杯それに応えようとする。たとえばクマは、兎を捕ったら、生で食わずに飼い主の所に持ってくる。すると義っしゃんがおいしく料理して、その分け前をクマに食べさせてくれるという事を、クマは知っている。両者の間にそういう無言の取り決めがあり、両者の関係性が対等であることを感じさせるのだ。

 著者と義しゃんの会話が、時々大学の講義のような理屈っぽいものになることがあるのだけど、そこは目をつぶって読むべし。だって大学の教授が書いた本だもの。

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