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2014/08/23

星野智幸「夜は終わらない」感想

 千夜一夜物語のパターンを、ピカレスク小説に使うというアイディアがおもしろい。しかも、千夜一夜とは男女の立場が逆! 男の生殺与奪権は女の方が握っているのだ。しかもこの女、玲緒奈というのだが、冒頭数十ページで一人目の男を殺している。「そんな話で私が満足すると思っているの?」

 玲緒奈は、すっぴんの時はこれといった特徴のない、のっぺらとした顔の女。だがそれが逆に、化粧でいかようにも化けられる顔=つまり男をだましやすい。同時にこの小説の中で、玲緒奈が様々なキャラクターに変化していくことを暗示している、という設定部分がまたおもしろい。

 複数の男から金をだまし取ったうえで、いよいよこれ以上搾り取れなくなったら、睡眠薬を飲ませて縛り上げる。目が覚めた男に言うのだ。「死にたくなければ、私を夢中にさせるようなお話をして」

 一人目の男の話は、人面瘡を多重人格にからめた、なかなか刺激的なストーリー。

 いじめられっ子や被虐待児が、不幸な自分は本当の自分ではないと思い込むために、もう一人の人格を作るという説は有名だ。玲緒奈も子どもの頃、実は虐待やいじめを受けていたのではないか? だから今こうやって、復讐のために男たちから金を巻き上げているのではないか? 暗にそういう事をほのめかしたストーリーを語る。だが、彼女が聞きたいのはそんな話ではない。人面瘡というアイディアはよいが、ありがちと言えばありがちなストーリー。だからなのか、一人目の男はあっさりと殺される。自殺したかのように見せかけて。

 最初読んだときは、こんなパターンで、次々に男たちが殺される話かと思っていた。で、ラストでついに女の望むストーリーを語る男があらわれて、千夜一夜同様、ハッピーエンドで終わるのかと。

 全然違った。

 二人目の男が、いきなり玲緒奈の心をつかむ話を展開する。しかも長編。「続きが聞きたければ、明日の夜を待て!」などと言うのだ。さらにこの長編、登場人物が「信じてもらえないだろうが、実はこんな体験を・・・」とか言って、自分の過去を語り始めるという入れ子構造。その上、語られる物語の中の登場人物も「実は・・・」とか言って別の物語を語り出すという、多重入れ子構造! まさに「夜は終わらない」!!!  で、それぞれの物語の主人公が、性格的にどこか玲緒奈と似ている。読み進める内に、謎の多いこの女の過去が少しずつ見えてくる。そんな仕掛けになっている。

 ただ、あまりに多重構造が重なり、複雑になってくるので、場面ごとに登場人物一覧表を作りながら読んだ方がよいかもしれない。

 この複雑な多重入れ子構造を持つ小説が、どのようにして終わるのか。主人公の玲緒奈は最後にどんな行動にでるのか。ラスト数ページの結末の鮮やかさ! そうかそういう終わり方があったのか! 

 おもしろかったです。

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