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2014/08/31

藤田 宜永「女系の総督」感想

 『森川崇徳。正式には「むねのり」だが、友人の中には「そうとく」と呼ぶ者もいる。』

 主人公の崇徳は、もうじき還暦を迎える。小さな出版社の取締役。出世欲はきわめて少ないのに、同期が病気で次々に脱落して、勝手に大役が回ってきたのだ。

 家族構成は見事に女系。妻は既に病で亡くなっているが、姉と妹は元気そのもの。特に姉のエネルギーときたら! さらに子どもは3人とも女。孫も女。飼っている猫2匹もメス。女だらけの家族の長。だから「女系の総督

 女だらけの家族の中、父親が絶対君主として君臨する話なら、向田邦子の作品がある。あの父親は、威厳があり高圧的で、手も出す古典的タイプだった。だが本作の崇徳は正反対だ。

 全部で五章からなるが、第一章のタイトルが「熱帯雨林」

 妹の夫が主人公に再婚を勧めるのだが、崇徳は言い返す。「熱帯雨林みたいな家に途中からやってきて馴染める女なんていませんよ」「我が家の女たちの熱くてむせ返るような感情の暴風雨の前には、私の理屈などひとたまりもない」

 ではどうするのか? 

「なるべく控え目に意見を述べるに限る。その後しばらくは黙るに限る」

 たとえばボケ始めた母親をどうやって病院に連れて行くか。もめ始めた女たちに対し

『とりあえず姉をクールダウンさせることが森川家の当主にあたえられた任務』

そしてケンカしていた姉妹が黙った隙間にすっと入り込み

「今はそんなことより~を考えてほしい。 父さんも~しようと思っている」と提案するのだ。

 その他にも、カウンセラーよろしく「女が『大変なの』と言ったら『大変なんだろうな』と同調を装い『むかつくのよ』と苛立ったら『むかつくのか』と受け流すに限る。そのうちに興奮が冷め、女は自ら冷静さを取り戻す」等々。

 熱帯雨林な女たちの中で、彼女たちをコントロールする技があちこちに散りばめられている。崇徳の名字が「森川」なのは、熱帯雨林系の家系であることを暗示している。そしてそれをコントロールするから「総督=崇徳」、つまり森川崇徳は熱帯雨林女系家族をコントロールする役目を暗示した名前であるわけだ。

 女たちの恋愛問題から浮気問題、夫のギャンブル狂問題、様々な問題が次々に起こるが、気がつくとスルスル巧みに解決されていく。それが森川崇徳。

 決してスパイダーマンみたいに細マッチョで目立つ活躍をするわけではない。草食系といってもいいだろう61歳男子の控えめな、だが見事な活躍。それが本書。

 職場で、あるいは家庭で、女たちのエネルギーに辟易しながら生活している男子諸君!  

 本書は必読ですぞ。

 

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