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2014/06/15

塩野七生「フリードリッヒ二世の生涯」感想

 塩野七生氏の「ローマ人の物語」最終刊は、あまりに読むのがつらくてつらくて、ラストなんか泣きながら読みました。かつてのローマ帝国は、あんなに他国の文化や宗教に寛容で、あんなにお風呂好きで(テルマエ・ロマエも大ヒットしました)あんなに国民が生き生きと暮らしていたのに、キリスト教が広まって以後は、他の神を信じる異教徒は殺してよし! などと、どんどん閉鎖的かつ陰険な国になっていってしまったからです。入浴は快楽につながるから禁ずるって・・・。そんな宗教ありか!

 ルネサンスで人間的文化が開花するまで、中世ヨーロッパは暗黒時代が続いたと言われています。人道上一番ひどかったのが異端裁判、そして魔女狩り。無実の人々が、異端の疑いをかけられたら最後、弁護の機会を一切与えられず一方的に処刑されるのですから。いつ誰が自分を告発するかわからない。恐ろしい世の中です。

 また、歴史の授業で、「カノッサの屈辱」なる事件を学習した記憶があると思います。法王に破門された皇帝が、雪の降る中、破門を解いてくれるようひざまずいて懇願するという、例のアレ。政教分離が当然の現代では考えられない事件です。

 そんなキリスト教に、敢然と立ち向かった男が中世ヨーロッパにいた! それが本書の主人公、フリードリッヒ2世!

 彼は1229年の第六回十字軍遠征で、戦闘を行わず、外交により聖地エルサレムの奪還に成功するのですが、法王からは、「聖地は血を流して取り戻すのが十字軍キリスト教徒。交渉によって奪還するなど、論外」と言って破門されてしまいます。ところが、長年の夢の聖地巡礼がかなった一般市民にしてみれば、皇帝フリードリッヒ2世に感謝こそすれ、破門された彼を無視するなんて、とてもじゃないけど、できなかったわけです。ここが、1077年のカノッサの屈辱の時とは大きく違う点。

 さらに、フリードリッヒ2世は、何度破門されても自分の科学的・合理的スタイルをあらためる気はさらさらなかったようで、破門されたまま、国立ナポリ大学を創設したり、法治国家設立を目指したり。そう、ルネサンスが始まる50年以上も前に、政教分離と科学的かつ合理的思考の萌芽をこの人が作っていたのですから、すごいとしか言いようがありません。ヨーロッパでは彼のことを「世界の驚異」と呼んでいるそうです(今でもキリスト教原理主義の方々は、ダーウィンの進化論など、科学的思考を真っ向から否定しているようですが)。

 ところが、法王はしつこくフリードリッヒ2世から権力を奪おうと、クーデター扇動など、何度も陰謀を張り巡らします。しかもあまりに悪質な手段が多いので、法王の名前「インノケンティウス」が、読み進めるうちに「陰険ティウス」と読めてしまえるほどです。陰湿すぎて、とても神の使いがやることとは思えません。

 ヨーロッパがやっとローマ時代に戻りつつあるなと感じさせるところで、主人公フリードリッヒ2世の寿命が尽き、本書は終わりを迎えます。文化がどんどん後退していく一方だった「ローマ人の物語」とは、その点が大きく違うので、最後はすごく明るい気持ちで読み終えることができました。よかったよかった。

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