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2014/06/23

朝倉かすみ「てらさふ」感想

 最初の30ページくらいは主要登場人物たちのキャラ設定がグダグダと続き、はっきり言ってテンポが悪い。だが70ページあたりからドラマが動き出し、そこから先はもうノンストップ。一気読みであった。

 ぽっちゃり体型の弥子と足長美人のニコ。二人で組んで、ここではないどこかに行こうと画策するのだが、あれこれ考えた末に二人が選んだ道がなんと「芥川賞最年少受賞作家」!

 弥子が書く方。ニコが表舞台に立つ方、と分業。で、まずは中三の時の読書感想文で全国コンクールに進出するところから計画を立てる。

 で、読書感想文の書き方が書いてあるのだが、これがなかなかおもしろい。

「学年があがっていくと、『わたしは』とか『ぼくは』って、いちいち書かなくなる」

「本の内容と、自分の身近に起こったことを、たとえ話にして重ねたり考えたりするのは鉄板なんだけど、学年が上がると、考え方や、考えたことがなんとなく大げさになっていくの」

「入口は小さいんだけど、出口が大きくなるっていうか」

「小さな穴から入って、暗いところを進んで行って、大きな穴を出たら、そこに、一見新しいんだけど、けっこうありがちな、まったく正しいよねっていう、先生に誉められそうな、明るい世界が広がっていました、みたいな」

「それもこれも主人公に導かれた結果ですって・・・読書っていいね、ある意味最強かもねって方向に持って行ければ」

「あと大事なのは、その年に起こった大事件をさりげなく、こう(混ぜ込む)」

「なにがどう、なにがどう、なにがどう、とすごく短い文をつづけたあとで、長い文がくると格好いい」

 いやまさに、それ! そんな風に書いてくれたら速攻で県大会突破確実です(マジで)。

 で、二人は本当に東京で文部科学大臣奨励賞もらうところまで行く。もちろん授賞式に出るのは美人のニコのほう。姿勢、立ち居ふるまい、歩き方から、受賞のあいさつまで、みっちり特訓したニコは、当然受賞開場で脚光を浴びる。で、この時の他の受賞者達に対する描写がこうだ。

「もくもくと本を読み、机にかじりついて感想文をちみちみ書くような子たちに、ニコがヴィジュアルで負けるわけがない」

 これ、そのまんま弥子にあてはまるのだが、当人もそれはわかっていて、「ほんの少し自虐的な微笑を浮かべ」・・・いやあシニカル!

 当然次に狙うのは芥川賞。そして、芥川賞をとるための計画を立てるのだが、これがすごい。

「クエストⅠ 応募する新人賞の受賞作を十作読み込む」

「クエストⅡ すべての新人賞受賞作のうち、受賞年齢の低い順から十作読む」

「クエストⅢ 選考委員のデビュー作を全部読む」

「クエストⅣ 芥川賞バージョンでⅠ~Ⅲを繰り返す」

 まるで大学受験の傾向と対策みたい。さらに感想文と小説の違いも書いてあって、これがまたまたおもしろい。

「いやなきもちや、わるいことをしたくなるきもちや、性格がわるかったり、異常だったりするひとを、普通のひとが普通にするように書く」

「性格のいいひとがわるいことを考えたり、わるいことだと本人が気づかなかったり」

「感想文は自分を優等生に見せようとするが、小説は、自分や主人公を、くせ者に見せようとする」

「小説は、くせ者なりの、一見どうでもいいような、ものの見方や考え方をとうとうと書き、いかに自分がこの世界になじめないかをアピールする。この世界なんて滅びてしまえばいいのにくらいの勢いを感じさせる。いっぽう、感想文は基本的に世界平和を願う」

 いやこの分析、すごいです。たしかに芥川賞ってそういう傾向あるからなあ。

 さらに「芥川賞作家になるんだから、普通科の高校にくらいには入っておかないと」と言って、弥子はニコに受験勉強をさせるんだけど、その勉強方法もなかなか的を射ている。

「暗記できるところは全部暗記するって方向でいけば、そこそこ点数はとれるから」

「数学や英語は一年生で習ったところだけやっとけば、少しだけど確実に点数がかせげるし」

 まあ、こんな調子で賞を取るまでが本作の前半。そしてこの成功がどのように破綻していくか、さらにそこから二人がどう立ち直っていくかが後半に描かれる。まあ、普通ならここを感動的に書くんだろうけど、本作はどこまでもシニカルです。

 そもそも弥子のキャラ設定が、まさしく自我の肥大した痛い女子高生そのもの。全国に大勢いるであろう弥子タイプの女の子にとって、本作はピカレスクロマン(悪い奴が主役のドラマ)として読めよう。

 本作を参考にして受験勉強をがんばるもよし。読書感想文で賞をねらうもよし。小説を書いて作家になるもよし。がんばれ全国の読書大好き少女たち!

 最後に、弥子が芥川賞を受賞した小説『あかるいよなか』は、そのあらすじと冒頭部分だけしか本作には示されない。でも、その部分を読んだだけでも、これがなかなか結構おもしろそうなのだ。是非朝倉かすみ氏には、この構想でもう一本、本格的な小説を書いて読ませていただきたい。本書のタイトルも「てらさふ」・・・古語で「見せびらかす」という意味があるらしいが、「てらそう(照らそう=あかるいよなかにしよう)」とも読めるではないか。

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