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2014/06/28

DVD「横道世之介」感想

 そもそも原作がたいへん不思議な小説であった。主人公の世之介は、そんなに特別なキャラではないからだ。我々の周囲を探せば、友人の中に一人くらいはいるであろう、そんな人物なのである。

 だから、一つ一つのエピソードは、ごくありきたりなもの。それの積み重ね。ところが時々、読者の胸にぐっと入り込んでくる場面がある。人によってそれは、お嬢様と初めてハンバーグを食べる時の屈託のなさだったり、カミングアウトする友人にスイカを差し出す場面だったり、借金承諾シーンだったり、引っ越しを手伝った時の友人からの感謝シーンだったり、猫の引き取り手が見つかった時だったり、お嬢様入院お見舞いシーンだったり、様々であろう。いずれも些細なことばかりなので、場面によっては心にひっかからないままだったりする(ちなみに私は猫)。

 だから、映画化がはたしてうまくいくのか不安だった。だが、本作はまずキャスティングのすばらしさで大成功を収めたと言っていいのではないか。

 まず主役を務める高良健吾。本ブログでもたびたび彼のことは取り上げ、高く評価してきたと思うが、本作の世之介は実に素晴らしい。家族や友人から愛されて、まっすぐに人の良いところだけ見て育ってきた世之介の天然キャラをまさしく、そのまま演じている。人生のターニングポイントで、逃げずにまっすぐ前を見つめるシーンがあるのだが、その実直さがいい。つくづく、こいついいヤツだなあ・・・と、それが画面から伝わってくるのだ。

 そしてお嬢様(名前は与謝野祥子。歌人の与謝野晶子も、音読みだと「しょうこ」ですね)を演じるのは、今やNHKの朝ドラ「花子とアン」で絶好調の吉高由里子。以前から自分の周囲に独自の時間の流れを持っているかのような演技をしていたが、本作ではそれがまさにお嬢様キャラにどんぴしゃりとはまっている。作者の吉田修一は、最初から彼女をキャスティングすることを想定して与謝野祥子というキャラを書いたのではないかと思えるほど。他の女優がやったら絶対あざといと思えるようなシーンでも、彼女が演じるとあら不思議! なんとかわいらしくてチャーミング! 今後もこの素晴らしい演技力を、様々な作品で発揮していってほしいものである。

 上映時間は結構長いのだが、いつの間にやら世之介ワールドに引き込まれて、エンディングまであっという間。そして、一体自分はこの映画のどこにそんなに引き寄せられたのかを確認したくて、最初からもう一度見直したくなる、そんな映画である。

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