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2014/05/18

辻村深月「島はぼくらと」感想

 「瀬戸内海の小さな島、冴島。島の子はいつか本土に渡る。」という帯の惹句に惹かれて読んだ。

 島には高校がない。瀬戸内海はそんな島だらけである。帯にあるとおり、島の子はいつか本土に渡り、本土で就職し、本土で新しい家庭を持つ。すると島はどうなるか。老人ばかりになってしまうではないか。

 本書はそんな島に、国土交通省、離島振興支援課からの紹介でヨシノという30過ぎの女性がやってくる。「地域活性デザイナー」という肩書きを持つ彼女は、島のおばちゃんたちに、島の産物を加工してネットで販売する会社を作らせて生き甲斐を与える。さらにIターンやUターンの若者にも仕事を与え、島を活性化させていく。この部分は後書きにもあるが、実在の人物をモデルにして書いたと思われる。だから小説なんだけど、このあたりはかなりノンフィクションである。なるほど、離島振興にはこういう手があったのかと、いちいち感心しながら読んだ。

 島民がみないい人ばかりではない点もリアル。お互い悪口を言い合ったり、派閥があったり。最初はいい人キャラだったある大物が、中盤で嫌われキャラに変化したりする。狭い島の中なので、嫌な相手とも、ずっと顔つきあわして生きていかなければならない。そのあたりのドロドロ加減も本書はしっかり描いている。

 Iターンの者同士が、実はそんなに仲が良くなかったりする事情なんかも書かれていて、これもリアル。

 Iターンの女性達は、夫の浮気が原因で離婚してやってきた人がいるかと思えば、つきあった相手が実は妻子持ちだったため、近所の誹謗中傷に苦しみ逃げてきた人もいる。だから、ひとくくりにIターン組と言っても、お互いが相手のことを快く思っていなかったりする、というのだ。

 ただ、女であるがために理不尽な仕打ちを受けて、島に逃げて来たという点では共通している。男性読者は男の身勝手さを非難されているようで、肩身の狭くなる思いを味わうかもしれない。

 島に住む者にとって、医者がいないということが一番の不安、という点が取り上げられているのもリアルだ。本書の登場人物達は、その解決策として、用意周到、とんでもないウルトラC技を仕組む。これにはびっくりした。ネタバレになるのでこれ以上は書かないでおこう。

 さらに、島に伝わる「幻の脚本」を巡るドラマなんかがあったりして、これだけで、立派に一つの小説が書けそうな内容である。かように本書は、なかなかアレコレてんこ盛りなのだが、作者は一見バラバラなそれらを、4人の高校生達の成長譚に絡め、見事に収束させて描いているので、非常にすっきりとした読後感である。

 ラストも非常に爽やか。辻村深月、会心の一作と言えるのではないだろうか。

 挿画は五十嵐大介。わりと有名な漫画家である。茶髪で下唇を突き出した、いかにも軽そうな高校生の姿を描いている。だが、作中の彼らは、浮ついた所など一つもなく、常に自分の感情表現に抑制をかけている、たいへんにおくゆかしい若者たちである事を強調しておきたい。表紙絵の雰囲気で手に取るのをためらったりしたら、ちょっともったいない。

 

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