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2014/05/11

梨木香歩「冬虫夏草」感想

 不思議なファンタジー小説です。前作があり、それはそれは大変な人気の本であるらしいのですが、不勉強なことに未読です。
 時代設定はおそらく100年くらい前の日本。電気が家庭に行き渡っておらず、夜の闇の向こうには一体何がいるのか、わからなかった時代。
 冒頭部分、いきなり亡き友高堂が主人公綿貫の部屋を訪れます。この時点でもうすでに怪しさ爆発してます。

 各エピソードは、8ページ前後と短く、それぞれに草花やらキノコやらの名前がタイトルとしてつけられています。で、各エピソードのラスト3行くらいで、なぜそのタイトルなのかが、わかるような仕掛けになっているのですね。

 一例として・・・「スカンポ」
 旅の途中泊まった民家には、男の子兄弟が3人いて、翌日出発するときに、「峠で開けるとよろしがな」そう言って、一つの包みをくれます。綿貫君が峠を登り切り、汗をかいた時、ふとその包みの存在を思い出す。開けてみるとスカンポの茎が数本入っている。喉の渇きを潤すのに格好の酸味であった・・・というような感じです。

 さらに本作、自然現象を観察した描写には、息をのむほどうっとりします。例えば、モリアオガエルの卵が孵化し、オタマジャクシが池にポチャンと落ちるシーン。下で静かに口を開けて待っていたイモリの口の中にオタマジャクシが落ち込んだときの「その瞬間イモリは口と目を同時に閉じ、うっとりと得も云われぬ至福の表情を見せた」という描写なんか、読んでいるこっちがうっとりします。で、アメ玉くれた麗しいご婦人の思い出と重ねて、自分もあの時あんな表情してたのではないかと思い至るあたりが、おもしろい。・・・。

 前半はダーリャ(綿貫君勝手に命名)さんとのプチ恋愛やら、アメ玉くれるご婦人との話やら、わりとふわふわした話が多いのですね。ところが中盤、飼っていた犬のゴローが行方不明になるあたりからドラマが動き出します。
 このゴローが実に、人情味の厚い犬で、例えば、綿貫君の書いた原稿を川に落としそうになった編集者を見て、「あっという間に軽やかに橋桁の先まで走り、風呂敷を咥えて帰って来、足元に置いた」というようなエピソードがゴローゴロー(親父ギャグですみません・・・)と出てきます。
「ゴローこそが私の生活の同伴者であったのではないか。しかるに私はゴローにふさわしい飼い主であったためしがあったか」
 こうして主人公綿貫君に俄然使命感らしきものが芽生え、鈴鹿山奥への旅が始まります。すると、出会う出会う。タヌキが住職の代わりに檀家の相談に乗るエピソードあたりは、まだまだ軽いジャブ。そのうちヤマメやらカッパやらの怪しい人たちがわらわらと綿貫君の一人旅を彩り始めます。

 ラストで、亡き友高堂によって、近い将来山奥の村々がダム開発によって水没する可能性が示されます。しかし、その運命をどうにかしろとか、そういった政治的方向には、話は進みません。ただ、滝の後ろに祠がある!とだけ。読者は一瞬おいてけぼりをくらったような感覚に陥ります。しかし、他の登場人物たちから「祠に行けとまでは言われなかったのだろう? そこは危険だから、行ってはいけないのだよ」と言われ、綿貫君の旅は終わりを告げるのです。
「カッパの君が、イワナの宿に常駐するとなると、君の生活の仕方と折り合うのかね」
「なに、それは生物一般に云えることではないでしょうか。そのときどき、生きる形状が変わっていくのは仕方がないこと。人は与えられた条件のなかで、自分の生を実現していくしかない」
 カッパの語る哲学に感じ入った綿貫君は、冬虫夏草との共通点に気づくのですね。周囲の条件によって、現れる特質、形状が違ってくる。冬虫夏草はその象徴的なものではないかと。

 ちなみに犬のゴロー。犬好きにはたまらない存在だろうと思われます。こんな賢い犬、私も欲しい!!!
 はたして綿貫君はゴローと再会できるのか! 

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