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2014/03/16

綾瀬まる「骨を彩る」感想

 

 読売新聞の書評で『宝物のような物語』などと絶賛していたので読んでみた。
 五つの短編でできており、脇役だった登場人物が、次の短編では主人公になっていたりする。
 最初の三つくらいまでは、家庭環境が複雑なため、それぞれ心に欠落があったり、重いものを抱えていたりする主人公たちが、その重さをなんとかしようとあがく。でも決してハッピーエンドにはならない。まあよくある普通の作品だと感じながら読んでいた。これはちょっと違うぞ・・・と感じだしたのは、四作目の「ハライソ」あたりからだ。
 ちなみに「ハライソ」は中学生にはちょっと早すぎる描写もあるので、中学生諸君は、高校生になってから読みなさい(命令)。
 三作目までが、なんだか重たい終わり方をしていたのに対し、四作目の「ハライソ」は不器用な若い二人に、明るい未来が開けそうな展開で終わる。ちょっと安直な展開だぞ。これは、ハッピーエンドを望む読者の要望を取り入れて、こんな「ハライソ(=天国)」にいってしまいそうな終わり方にしているのか? いやいや、こんな展開で納得するわけにはいかないぞ。
 ところが、作者はそうして読者を半信半疑にさせておいて、五作目の「やわらかい骨」では再び重たい展開を見せつける。
 主人公は中学2年生の女の子。名前は小春。
 小春の母は三歳の時に病死。父と二人で生活している。
 ちなみに小春は一作目の主人公の娘だったりする。
 ある日転入生がやってきて、平和だった小春たちの学校生活に波風を立てる。食事の度に十字を切る転入生を見て、宗教関係の人とは距離を置きたいという動きがクラスに広まるのだ。転入生は孤立する。小春は転入生の置かれた立場と、自分の置かれた立場を対比することで、自分の心に巣くう黒い骨の存在に気づく。
 このあたりの描写が、読んでみるとわかるのだが、実にすごい。
 母の死後、実家に行った時、親戚の初老の男に『朝子の子かい。朝子っていうのは昔から年長者を敬わない、ツンと澄ました礼儀知らずのイヤな女だったよ。死んだんだってね。やっぱり神様はちゃんと見てるねえ。(中略)お前もさぞろくでもない人間に育つんだろうね。』と言われる。
 こうして幼少期に突然の悪意にさらされた小春は、『まっ黒い憎悪が膨れあがって体が破けそう』になる。
 中学生に成長した小春は夜、布団の中でジジイ死ねとつぶやく。『あの男のおもちゃにされた嫌悪感が消えない。死ね、死ね、死ね。』
 それからは、『目の前にあるものをどう思うか、よいか、悪いか、他人に流されるよりも自分で決めたい』と思うようになる。
『早くあのジジイを口でも拳でもぎたぎたに叩きのめせるようになりたい。』
 だが、そんな自分に小春は自己嫌悪するのだ。
『目を伏せた瞬間、じくりと肋骨の一部が痛んだ。』
『私の骨には他の子が抱えることのない、ろくでもない飢餓が巣くっていた。』
 そんな小春は、ある健全な中学生男子に告白され、つきあうようになる。ところが、何回目かのデートの時、お弁当に母親がしょうっちゅう入れるミニトマトを、徹底的に拒否して食べないと言う彼に向かって 『大事にされてるって、なくさないと、わかんないんだ』 いかにも母子家庭の娘みたいな、『一番言いたくなかったはず』のセリフを言ってしまうのだ。    『たった十四歳で、ごく普通に両方の親が揃っているのだから、わざわざ親のありがたみなんて馬鹿げたことを考えなくて、いいのだ。それは小春の荷物だ。そして悠都がたまたまこの先、そういう巡り合わせになったら、自分の荷物として考えればいい。だけど、負う義務もない状態でそれを無理に考えさせるのは、とてもひどいことのような気がした。~中略~違う、わかってもらうのではなく、小春の方が変わるべきなのだ。大人になって、骨へと染みたろくでもない飢餓を消すべきなのだ。まともで普通な、偏りのない一人になる。』
 たかだか中学二年生に、こんなフラットな考え方を強要する環境の苛烈さに、心が痛んだ。フィクションの世界とはわかっているが、リアルの世界でも、ここまで考えさせられて日々を生きぬいている中学生が、ひょっとしたら何人もいるのだろうか?
 そして、物語は一作目のエンディングと重なるようにして終わる。このシーンが、実に美しいのだ。読んでいて、魂が洗われる思いがした。  あらためて読売新聞の書評を読み返してみたら『第5編が特に素晴らしい』と書いてあった。
 ・・・やられたなあ。

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