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2013/08/03

宮崎駿の「風立ちぬ」感想

 小説「風立ちぬ」のヒロインは節子。映画「風立ちぬ」のヒロインは菜穂子。名前が違うではないかと思うかも知れない。実は菜穂子は、同じ堀辰雄の小説「菜穂子」のヒロインの名だ。節子と菜穂子は、ともに結核を患いサナトリウムで療養するという点で共通している。しかし、節子はサナトリウムから一歩も外に出ないが、菜穂子は夫に会うためサナトリウムを抜け出し、汽車に乗って東京まで出てくるというあたりが大きく違う。

 映画のヒロイン菜穂子と、小説のヒロイン節子は性格も随分違う。節子はただひたすら受け身で従順なのに対し、映画の菜穂子は恋に積極的なのだ。
 描きかけの油絵を使って堀越二郎君を森の奥の泉に誘い込むトラップを仕掛けたりする。サナトリウムを抜け出して東京の二郎に会いに行くあたりは、小説「菜穂子」とそっくりなのだが、その目的が、小説とは違って、二郎さんと結婚式をあげるためなのだ。しかも夜のお誘いは彼女の方からなのである。その時の声優庵野秀明のあたふたっぷりが面白い。「え、だって、いいのかい?」(笑)
 そもそも、小説「風立ちぬ」には、性的な描写が一切ない。作者が意図的にそういう場面を削除しているからだ。

 前席の男子高校生が、号泣していたが、たぶんその理由は以下のようなものであろう。

死ぬ前に、病が重くなって、動けなくなってしまう前に、
・きれいな私を二郎さんに見てもらいたい。
・きれいな私を二郎さんに抱いてもらいたい。 

「ああ、なんて健気なんだ。泣けるぜ!!」みたいな?
「オレも彼女の方からあんな風に誘ってほしいぜ。まさに理想の女性だぜ。それなのに死んでしまうなんて、泣けるぜ!!」みたいな?(笑)

 恋や性に奥手な「理系男子」にとって、こういうタイプの女性は理想の姿なのだろう。
  上記「理系男子」の所は「大好きな仕事があって、それを完成させるまではひたすら仕事に熱中したい男子」に置き換えてもらって構わないし、「庵野監督」に置き換えてもらっても構わない。本作の主人公は飛行機の設計に夢中だが、別にエヴァンゲリオンやら巨神兵やらの作画に夢中でもいいのだ。
 そういう訳で本作、設定に関しては堀辰雄の「風立ちぬ」と「菜穂子」からいいとこ取りをした上で、ヒロインの性格を宮崎監督好みにしたハイブリッド映画だと言える。(宮崎監督の映画に出てくるヒロインは、自分の運命を自分で切り開いていく意志の強~い女ばかりなのだ。ナウシカしかり、シータしかり、もののけ姫しかり。)宮崎監督、試写会で泣いたということだが、自分の理想の女性が死んでいくんだから、そりゃ泣くよな。
 当然、小学生以下のお子様が見ても、なんのことやらちんぷんかんぷんな映画であることは間違いない。理系男子、あるいはお仕事大好き男子の願望を映画で表現したようなものだから、女性からの評価がいかほどのものであるか、興味のあるところだ。

 ちなみに、私の横で見ていた妻は、ラブラブなシーンになるたびに「庵野監督があのセリフ言ってるのかと思ったら、おかしくてたまらない。あんなセリフ、絶対自分の奥さんに、言ってないよね!」とクスクス笑っていた。

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