« DVD「ぱいかじ南海作戦」感想 | トップページ | 森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」感想 »

2013/08/17

奥田英朗「噂の女」感想

 雑誌「yom yom」に連載されていたものを一冊にまとめたもの。
「中古車販売店の女」   
「麻雀荘の女」
「料理教室の女」
「マンションの女」
「パチンコの女」
「柳ヶ瀬の女」
「和服の女」
「檀家の女」
「内偵の女」
「スカイツリーの女」
と、十の短編で構成されている。一編30ページくらいの分量なので、テンポよくすいすい読める。
 いずれの短編にも「糸井美幸」という謎の女が登場する。しかもこの女、徐々に愛人がランクアップしていくところが面白い。
 まずは中古車販売店社長愛人。次は麻雀荘でアルバイトしながら客としてやってきた土建会社社長愛人の座をゲット。その次は貸しビル業の社長愛人。遺産相続で資本を増やしつつクラブのママ兼経営者となり、最後には県議の愛人となる。
 中学時代はまるでぱっとしなかった、地方の地味な女、糸井美幸が、女の武器を使って、徐々にのしあがっていくピカレスクロマンが縦糸。
「世界中どの国でも、女に殺される男より、男に殺される女の数の方がはるかに多いやん。やったら、法律もバランスを取るべきやと思う。女が男の百倍殺されとるなら、女が男を殺しても、罪の重さは百分の一やて」いやいや、そうなのか?

 さらに、糸井美幸と関わる男女たちが、地方の慣習に縛られて窮屈な人生を送る様子が横糸。土建屋なら談合組織が、警察なら署内の派閥関係や、地元暴力団とのなれ合いが、檀家なら寄進が、政治家なら餅代が、というように、地方にはどの職種にもなにがしか、金銭にかかわる昔からの慣習というものがある(ように本作では描かれている)。悪いこととわかってはいるが、それがないと組織がなりたたなくなる。だから誰もやめようと言えない。言い出す者も一度登場するが、気の毒なことに他の皆からよってたかって潰されてしまう。
 ただ、この慣習というものが実に窮屈である。本作は慣習維持に悪戦苦闘する様子が実にコミカルに描かれていて笑える。ほとんどの短編、共通して主人公はもめ事の調整役であり、そこから「逃げ出したくなった」という終わり方をする。それぞれ組織の維持に必要なシステムとして、長く慣習として残っているのだろうが、その調整役を任されると、窒息しそうになるのだろう。

 糸井美幸は、こういう男たちが作った「我が身保身システム」の破壊者として、女たちから羨望のまなざしで見られる。
「糸井さんは女の細腕で自分の船を漕ぎ出し、大海原を航海しとるんやもん、金持ちの愛人を一人殺すぐらい、女には正当防衛やと思う」などという、なかなかに物騒なセリフをはいたりするくらいなのだ。
 NHK朝の連続テレビドラマ「あまちゃん」で、小泉今日子が「田舎をなめんなよ」みたいなかっこいいセリフを吐いていたが、田舎には田舎で、男社会が作り上げた困った慣習は沢山あるのだ。

|

« DVD「ぱいかじ南海作戦」感想 | トップページ | 森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」感想 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49249/58011339

この記事へのトラックバック一覧です: 奥田英朗「噂の女」感想:

« DVD「ぱいかじ南海作戦」感想 | トップページ | 森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」感想 »