BD「ライフ オブ パイ」感想
太平洋で遭難して奇跡の生還をした少年の話・・・ということに表向きはなっている。
その後、中年オヤジとなった主人公パイが、当時のことを来客に回想して聞かせる形でドラマは進む。
太平洋のど真ん中、救命ボートには少年パイと、船の積み荷である動物園の動物たちが乗っている。
シマウマは骨折して立てない。
ハイエナはシマウマを食い殺そうとする。
オランウータンはそれをやめさせようとする。
ハイエナは、オランウータンが気を抜いた一瞬のスキをつく。オランウータンの死。主人公パイ少年の悲痛の叫び。
この間、少年パイは「やめろ、やめてくれ」と叫ぶだけで、一切手出しをしない。見ていてイライラする。普通、手元にあるオールでハイエナぶっ叩くだろ? でもそうしない。
ここでトラが登場。でもこんな小さな救命ボートのどこに、あんな大型肉食獣が隠れていたんだ?
このあたりで、本作の二重構造に気がつく人は鋭いと言える。とにかくこのトラ、あっという間にハイエナを食い殺す。シマウマもオランウータンも全て食い尽くす。
この後、少年パイとトラの長期間の漂流が語られる。救命ボートにはトラが君臨。少年パイは、救命胴衣と板をつなぎ合わせた手製のボートに逃げ込む。トラが自分を食いに来ぬよう、釣った魚を与えるなど様々な工夫を凝らして。
映像は絶望的な状況の中、次々にファンタジックなシーンを映す。夜の海で無数に光るクラゲたち。突如海底から大口を開けて一気に浮上してくるナガスクジラ。海上を弾丸のように飛び回るトビウオの大群・・・。
やがて少年パイとトラを乗せたボートは、浮島に辿りつくのだが、この島がなんと、夜になると動物を消化する酸を出す、食虫植物のような島。このあたりでほとんどの観客はオヤ? と思うことだろう。パイが語っているのは真実なのか? ひょとしたら、極度の飢えのため、幻覚を見たのではないのか?
だが映画はラスト近くで、別の見方を提示するのだ。
トラは実はパイ自身だったのではないか? 救命ボートに乗っていたのは動物ではなくて、人ではなかったのか? ボートの中で、人と人との殺しあいがあったのではないか? 他の三人が絶命した後、ボートでずっと漂流していたのは、パイ一人だったのではないか? だから、幻覚を見るほどまでに精神が追い込まれたのではないか?
だとしたら、前半の導入部でなぜしつこく宗教について語られたのか、トラの凶暴なシーンが具体的に描かれたのかが、何となくわかってくる。
回想シーンでは、トラはジャングルに振り向きもせず消えていく。つまり、パイ少年の心に住み着いていた凶暴な獣の部分が去っていったことを暗示している。こうしてパイ少年は人間社会に復帰することができた。
神はそういったことも含めて、パイ少年の生還を認めた。
そこには一体どんな神の意志があるのだろう?
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