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2013/07/06

舞城王太郎「キミトピア」感想

 第148回芥川賞候補作「美味しいシャワーヘッド」他、七つの短編集。共通するのは、主人公が、幸せを手に入れるために、他者との接点を探ろうとするんだけど、なかなかうまくいかない所・・・かな? 表紙の装丁も七つの風景写真を放射状に組み合わせている。
 
 いくつか感想を。

 二本目の「添木添太郎」
 骨折した部分にあてがうのが添え木。主人公の小学生男の子は、不思議な病気の女の子の、心の添え木みたいな存在として描かれる。
 この病気というのが、身体の一部がランダムに欠落するという、現実にはありえないもの。だから、読む時には、境界性パーソナリティ障害や人格乖離など、具体的な病名に置き換えつつ読むといいと思う。「今日は足がないの」と言って、彼女が足を引きずって歩いていたとしたら、実際には足はあるんだけれども、彼女の心の中では足は存在しないのだ。だから、周囲の者は「足あるじゃないか」などと言ってはいけない。彼女にあわせた言動をしなければならないのだ・・・みたいな。
 つまり彼女は、いっしょにいると気持ちが重くなっちゃうような心の病を抱えていて、その結果彼女の周囲には友だちがいなくなったと考えながら読むのが妥当な線ではなかろうか。
 さてこの病気の女の子、どうやら美少女であるらしいのだが、中盤でもう一人美少女が出てきて、そのどちらにも主人公はもてる。それは彼が性格がいいからなのだけど。フラットな気持ちで、ちょっと変な病気の女の子とも、当たり前に普通につきあえてしまうという心の強さを持っているからなんだけれども。
 ところが、別れは病気の彼女の方から切り出される。むろんこれは彼女の本心ではないと思われる。「もう一人の美少女のほうとつきあえ、私には構うな、あなたのおかげで私は十分幸せだったから」みたいなニュアンスが感じられるからだ。自分は彼のために身を引こうとしているらしいわけだ。
 主人公はこの別れを受け入れ、そうしてその夜、馬の悪夢を見る。この夢が怖い。主人公の深層心理であろうと思われる。つまり彼は、彼女に申し訳ない気持ちで一杯なのだ。だがその上で彼は、自分の選択をきちんと受け止めて前へ進もうとする。とても力強い小説だと感じた。

 そんな「添木添太郎」を読んだ後で三本目の「すっとこどっこいしょ」を読むと、展開のあまりの違いに驚くことになる。やはり美少女にもてる中学生男子が主人公なのだが、それはやはり主人公の考え方がフラットだかららしいんだが。
 今作も美少女にはとんでもない問題がある。ただし、そのベクトルがまったく前作と違う方向に行っているから(笑)あっと驚く展開になる。かなり悲惨でグロな仕打ちがハイテンポであっさりと描かれ、それでも割とあっけらかんと生きていく主人公を見ていると、もうどうとでも来ちゃってください、すっとこどっこいしょ! みたいな気分になってくる。

 最後の「美味しいシャワーヘッド」
 タイトルが意味深。言いたいことをぐっと飲み込んで生きているうちに、ふと気がついたらシャワーヘッドまで飲み込んでたとでも? じゃばじゃばと水をまき散らすシャワーヘッドを飲み込んだということは、自分の胃の中に言いたいことをじゃばじゃばまき散らし続けていたってこと? それで自家中毒になっちゃったって事? 
 不器用な生き方をするあまり、ふと気がつくと元カノは結婚するし、今カノにはふられるし、そんな青年が主人公。
 今カノにふられた後、遠くからタクシー使って、彼女の家のすぐ近くまで会いに行く。それなのに、彼は結局会わない。会って、修羅場になってもいいからなりふり構わず彼女にいろいろ言えばいいのだろうが、そういうことができない人なわけだ。一体タクシー代にいくら使ったんだよ・・・。きっと、中途半端に優しいからこんなことになるのだろう。「僕と結婚しても彼女は幸せになれないよな、だから彼女とは会わない、それでいいんだ」とか思ったみたいな、そんな展開をする。
 元カノの妹が、姉の披露宴直前に、彼のそんな症状をなんとなく指摘してくれたりして、おかげで主人公、「自分は今苦しいんだ!」と気づいたらしいところで物語は終わる。

 いずれの話もドラマの展開が予測不可能。起承転結パターンは一切あてはまらない。最後までドキドキしながら読むことができる実に楽しい一冊である。
 

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