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2013/04/28

高野史緖「ヴェネツィアの恋人」感想

 ベネチアじゃなくて、ヴェネツィアです。発音にこだわっています。
 ラブロマンスじゃなくて、SFです。タイトルに騙されぬようご注意。

 「カラマーゾフの妹」で江戸川乱歩賞を受賞し、一躍脚光を浴びた高野史緖の、初の短編集。結構古い時代の作品もあります。
 表題作はマルチエンディングみたいなストーリー。もしこうしていたら、もしこんな設定だったら、二人はこんな展開になっていたのでは・・・と妄想が広がりまくってます。
 「カラマーゾフ」の続編を書くくらいですから、作者は相当ロシア文化が好きのようで、本書にもロシアを舞台とした短編がいくつかあります。クラシック音楽への造詣も深いようで、「ガスパリーニ」では、ストラディヴァリウスくらいしか知らない我々一般人を煙に巻くような名前のヴァイオリンが登場します。また、ワーグナーの歌劇を過激にパロった「白鳥の騎士」なんかは爆笑物です。スパイダーマンやハリポタ設定が出てきて、とどめに「坊やだからさ(ガンダム)」が出た時にはのけぞって笑いました。
 ただ、そういう笑いの要素はごくごく控えめで、どちらかというと、人知れず密かに生き延びている文化が持つ独特の美しさみたいなものがメインテーマとなっているように感じます。そういうわけで、全体の印象としてはゴシック調のSFファンタジーという感じです。格調高く美しく、しかもどっしり感があるので、ワーグナーの時代にテレビがあった・・・みたいな、ありえない設定の小説なのに、平気で読めてしまいます。
 最後の「ひな菊」も、ロシアの体制に反してDNAの研究を続けていた学者が、ある日突然消息を絶つ! というドラマに、作曲家ショスタコーヴィッチから誘われて心が揺れる女性チェロ奏者のロマンスを絡めてきます。学者は当局に消されても、DNAが遺伝情報を持つという科学的事実は消せないし、チェロ奏者はショスタコーヴィッチとはつきあわない・・・という、なかなかに骨太な展開を見せます。同時に、なぜ生物は有性生殖を始めたのか、について筆者なりの仮説が、スターリン体制になぞらえて述べられていたりして、ドキドキします。
 また、ショスタコーヴィッチは、ロシアの体制にこびへつらうふりをして、実は曲の中に過激なメッセージを秘めていたらしいのですが、そのあたりを知っていると、本作はなお楽しめるかと思います。

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