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2013/04/13

こうの史代「ぼおるぺん古事記」感想

 以前「夕凪の街 桜の国」を本ブログで絶賛したことがある。その作者、こうの史代が久々にペンをとった。しかもなぜかぼおるぺん。理由は、前書きに「玉のついた矛が国生みを助けたように玉のついたペンがこの作品を導いてくれるはずだ」後書きに「千三百年の間に、文字だって絵だってこんなに簡単に記せるようになりましたよ、と報告したくなったから」とある。
 膨大な古事記の約三分の一を占める「神代編」を、スクリーントーンや黒ベタ塗りなど一切使わぬ手書きで、手間暇かけて描写。おかげで完成までに時間が随分かかったようだ。それが、この度全三冊、ついに刊行。いやはっきり言うが、これは感動ものである。日本人ならぜひ読め。女性ならなお読め! と言いたい。
 口語訳は欄外に必要最低限しかない。だが、こうの史代が描く登場人物の表情を見れば、文語で何を言っているのか、ほとんど想像できてしまう。すごい筆力だ。

 神代編のストーリーは、イザナギイザナミの話やら、天の岩戸の話やら、八岐大蛇の話やら、因幡の白ウサギやら、海彦山彦の話やら、絵本や紙芝居で見たことのある話ばかり。今こうして読み返してみると、あっさりと主人公が死ぬ話とか、やたらと主人公がわがままな話とかが多いことに驚く。
 また、女性の視点で古事記を読むと、なるほどこうなるのかと感じる部分も多々あった。例えばオオクニヌシ。登場した時は、因幡の白ウサギを助ける心優しい男なのだが、そのせいで、いろんな女性にモテて、その結果多くの男達に恨まれ、何度も殺されては女達によって復活する。体を張って男を助けようとする女達のたくましさが、ボールペンによって存分に描かれている。
 そのオオクニヌシ。八岐大蛇を退治した英雄スサノオの娘スセリビメと、無事かけおちできてメデタシ! と思いきや、結婚後も女たちにモテる事には変わりがないらしく、次々にいろんな女に手を出しては子供を産ませてゆく。浮気を次々に繰り返す夫を見るスセリビメの表情が、これまたなんとも言えないいじらしさなのだ。昔本で読んだ時には、行間からこういうスセリビメの感情をまったく読み取っていなかった、あっさり読み流していたように思う。
 また、男の都合や一方的な約束不履行によって、女と別れてしまうパターンがいくつかある。例えばニニギノミコト。妊娠したコノハナサクヤビメに「その子は俺の子じゃない」と言い放つ。例えばヤマサチヒコ。覗くなと言われていたのに、妻トヨタマビメの出産する現場を見てしまい、妻と別れることになる。女達の哀しく逞しく凛とした美しい表情を、こうの史代は心をこめてやさしく描く。何とも言えないタッチである。
 そうかと思えば非情で残酷な描写も多い。例えばアメノウズメ。魚たちを集めてニニギノミコトに服従を誓わせるシーンがある。この時、ナマコだけが、服従を誓わなかった。すると、普段は美しい女性の神様であるアメノウズメは、突然ナイフを取り出し、ナマコを捕まえ「この口か? ついに答えぬ口は?」みたいなことを言ってその口を切り裂いてしまうのだ。豹変するアメノウズメの表情が怖い怖い。っていうか、これ、やってることは、ほとんどヤクザさんと一緒じゃない? (アメノウズメの多彩な表情は他にも何シーンかあり、その度笑わせてもらった)
 また、ヤマサチヒコが海中から水上に戻るシーンは、アニメ「海のトリトン」を意識したんだろうなとか、あちこちに遊びの要素も散りばめてある。
 泣いて笑って怒って、そして最後にちょっぴり幸せを感じることのできる本書、力をこめて一読をお勧めする。

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