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2013/04/06

朝井リョウ「何者」感想

 職業柄(個人情報が漏れては困るので)、ラインを使わない身の上としては、あちこちついていけない内容であった。想像力をたくましくして何とか読み切った(笑)。
 主人公は演劇の脚本を書いたりするので、他人を観察する習性が身に染みついているらしく、「部屋の中でもチノパンはいてる」とか「食器の数が少ない」とか、細かく観察しては、その裏側の事情を考察している。それだけなら、ただの名探偵ホームズなのだろうが、どうやら読み進めるうちに、主人公は就活に失敗しつつある大学5年生であることが分かってくる。自分の就活がうまくいかない腹いせに、就活中の他人の滑稽さを発見してはそれをツイッターにアップするという性格悪い青年であるらしい。
 例えば、上の階に住んでいる女子大生のことを、「『海外留学をしてきた私としては』『ボランティアとして活動してきた私としては』常にそうやって自分に枕詞を必要としているのはいかがなものか?」 とか、「『名刺交換することで人脈が広がって嬉しい』とか、学生のくせに名刺交換っておかしいだろ?」「典型的女子学級委員長タイプだよな」などと言ってバカにするわけである。

 ところがラストでその彼女から、ずばりと自分の性格の悪さを指摘される。で、ちょっとだけ目覚めて、就活再スタートするというストーリー。
 読んでいて、自分は他人とは違うことをアピールするために、無意識に「今日もクリエイターと有意義な話をした」とか「○○の公演を見たが最低だった」などとツイッターに書き込んだりするあたり、自分が何者なのかがわからなくなってしまったシューカツ生の痛さがひりひりと伝わってくる。同時に、「自分はどうなんだ? こんなブログを書いているのは誰かに『私ってこんな文章書けるんです』とアピールしたいからなんじゃないか? 困った自己顕示欲だな?」とか言われているような気もして、すごく居心地の悪さを感じた。いやあまいった。
 いや就活って、新聞記事によく特集が載っていて、「大変そうだなあ」と思って読んでたけど、ここまで精神的に追い込まれるものだったんですね。たしかに、どこからも内定もらえないと、自分の存在意義がぐらぐら揺れまくりそうである。おまけにエントリーシートや面接で一体自分の何がわかってもらえるのか、最終面接までいったのに、その後いったい何を基準にして採用不採用を決めるのかがまったく見えないというのは、ものすごい不安なんだろうなと・・・。少しでもいい印象を持ってもらおうと演技しまくる自分に自己嫌悪を感じ、本当の自分がどんなだったか、段々思い出せなくなり、どんどん精神状態が不安定になっていくのだろうなと・・・。一体いつから日本の就活は、学生をこんな不安のどん底にたたき込むようなものになってしまったんでしょうか?
 職業柄、生徒相手に高校入試対策の面接練習をよくしていますが、生徒は精一杯自分の印象をよくしようと、涙ぐましい演技をしているのを感じます。そして表現力がある一定のレベル以上の生徒になると、本当の姿はなかなか面接や自己アピール文だけでは見えてきません。面接会場では、みんなすごく努力家ですばらしい長所を持った人にしか見えません。落とすとしたら、数字のデータがきちんと出ている成績を参考にするくらいしかないです。人物がすばらしいかどうかなんて、とてもじゃないけど判定できません。それなのに、就活では最終面接で採用不採用を決めるわけですよね。
 自分が何者なのかを、まさか就活でもっとも問われることになるとは、そんな時代が来るとは思いませんでした。シビアな世界を描いた小説です。

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