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2013/03/17

畑野智美「海の見える街」感想

 図書館で働く4人の男女、それぞれの視点で語られる四つの短編。

 このように多視点型の群像劇パターンは、最近映画化されて大人気の朝井リョウ「桐島、部活やめるってよ」もそうでしたが、最近増えてきているような気がします。

 一話目の主人公、本田君ですが、パニックに陥ると、フリーズして思考停止してしまいます。キツイ性格の姉二人に囲まれて育った幼少期の環境のせいらしいのですが、あまりに優柔不断なので、読んでいてイライラしてきます。途中で読むのやめようかと思いました。がんばって最後まで読んで、本当によかったと、今は思います。

 その他の登場人物達も、児童虐待やDV,中学校でのいじめなど、心になんらかの傷を抱えていていて、交友関係を広げようとせず、図書館でひっそりと暮らしています。これらは最近の小説でよく取り上げられる社会的問題なので、そう聞くと「ああ、またその手の暗い話か」と思うかも知れませんが、本作の読後感は驚くほどの多幸感に包まれます。それはおそらく登場人物たちが、本田君の優しさに触発されて、ちょっとずつ明るい方向に人生の舵を切り、同時に本田君も少しだけ成長していくからでしょう。

 本田君の優しさについてですが、例えばこんな優しさです。

「日野さんってさ、いつもは首を右に傾けているのに、考え事をしている時には左に傾くんだよ。悩んでいる顔を見ると心配でしょうがない。傾きを右に戻してあげたい」

 最初はすごーくイヤな女の子だった鈴木さんも、ちょっとずつ変化していきます。例えばいじめられた過去をひきずって友だちの作れない日野さんに対してこんな風に。

「いらない、いらない。一人いたら充分だね。あんな薄っぺらい生き物」「薄っぺらい?」「そうだよ。女友達なんて、薄っぺらいよ」「そっか」

 

 また、本作はところどころ作者の本音がちらちら見えて楽しい作品です。例えば「まつ毛が異様に長いし、アイラインが太すぎるし、チークが濃すぎる。スッピンになったら誰か分からないんだろうなと思うが、体さえあれば、顔なんてどうでもいいのだろう」弟の連れてきた彼女を見て、日野さんがこう思うのですが、いやこれ、笑いました。こんなこと言っちゃっていいのかな?

 他にも「ここの中学校はかわいい女の子が少ない。たいして寒くもないのに防寒のためにスカートの下にジャージを穿くという埴輪スタイルで登校していす生徒が多いせいもあるが、夏服の時もかわいくない子はかわいくなかった。逆を言えば、埴輪スタイルでもかわいい子はかわいい」いやそんな直球なこと言っちゃっていいの? 女性作家さんは何者も恐れず、ズバッとど真ん中にストレート投げ込んできますね。

 児童館の利用の仕方について、モンスターペアレントにズバッと正論を言い放つシーンがあるのですが、職業柄読んでいて実にすっきりしました。言ってやれ言ってやれ!

 装画は、エヴァやもののけ姫の原画を手がけた吉田健一。アンバー・紫・ピンクを使って、海辺を歩く若い男女二人を美しく描いています。

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