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2013/02/09

有川浩「空飛ぶ広報室」感想

 タイトルどおり、本書はまさしく自衛隊の広報誌です。自衛隊に拒絶反応のある人が、本書を読んでどう感じるか、興味のあるところです。
 当方は自衛隊に拒絶反応のない家庭に育ったので、大震災の時の自衛隊の活動には本当に頭が下がる思いでした。あの時、彼らが何をしたのか、知らない国民がいるとしたら、それは報道する側の怠慢ではないかと、本書を読んで思いました。

 本作は、広報担当の自衛官と、テレビの美人ディレクターが主人公の恋愛ドラマが骨格となっています。くっついたり離れたり、お互いに前向きな気持ちで仕事に向き合って切磋琢磨して、お互いを尊敬し合うようになって、少しずつ恋愛感情が高まっていくという、まさに王道のストーリー展開が、六つの章で描かれます。舞台が自衛隊の広報室であるという点だけが王道から外れているのです。

 本来はこの六つの章のまま、2011年の夏、刊行される予定だったようです。しかし、後書きにもあるように、3月11日に東日本を大震災が襲います。作者は「あの日の松島」という章を最後に書き加え、翌2012年の夏に本書を刊行するのですね。
 東日本大震災の後の松島基地に、主人公が取材に行きます。そこでちょっとしたドラマが展開しますが、ほとんどドキュメンタリーの体です。国産戦闘機F2が津波で流された時、自衛隊員は一体何をしていたのか。なぜ、その事情が国民に知らされていないのか? 報道のあるべき姿とは何なのか? どうしても書かなければいられない、そんな気持ちが、最後の章を作者に書かせたのでしょう。
 ほとんどの国民は、自衛隊で働いている人たちが、どんな感情を持っているのか、どんな気持ちで仕事しているのかを知らない。どうして彼らが被災地で冷たいご飯を食べているのか、その理由を知らない。そもそも自分に関わりのない世界を知ろうとしないのが普通の人間である。だから広報部は、自衛隊ならどんな仕事ができるのかを理解してもらえるように活動している。そんなことを本書は作中で登場人物に語らせています。

 普通の恋愛小説を読みたいのなら、他の作家のものをあたったほうがよいと思います。本書はちょっと特殊な目的を持って産まれた小説です。

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