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2012/02/19

辛酸なめ子「女子校育ち」感想

 本の帯に、こんな「女子校脳チェック」があります。

○女を出すことに抵抗を感じる
○女を惹き付けるツボがわかっている
○女らしい細やかな気遣いができない
○ヒゲがうっすら生えている
○変な男にひっかりやすい
○クリスマス礼拝などの儀式につい反応してしまう

 現役女子校生、その親、女子校出身のOLやその旦那、かつて女子校生とつきあったことのある若い男性など、多方面にわたって取材、足かけ七年の大作です。ただ、取材が長期に渡った弊害からか、同じ主張が何度も繰り返されるあたり、やや編集が不十分な感じも受けます。一方、筆者自身が、女子学院出身で、母親は白百合出身とのこと。自らの体験も豊富に語ってくれるあたり、読んでいてかなり楽しいです。

 特に笑えたのは、第一部と第二部のそれぞれの扉に「中学入学時、まじめ人間だった頃」と「三十代で女子校時代にコスプレ退行」の辛酸なめ子氏写真がある所。必見です。

 なにやら中央公論社の「新書大賞第5位」という賞もとったようで。各章とも、前半から中盤まで、どこかとぼけた筆致で書き進め、最後にいきなりズバッとブラックに切り込んできます。時々空回りしてる感もありますが、あちこちに「うーん」とうなずかされる部分もあります。いくつか抜粋します。

(ネタバレになりますので、気にする方は、ここから先は読みませぬよう)

 まずは女子校のデメリット
・自然体で女を武器にできない。女を出すことに抵抗を感じてしまう。
・女子のみの気の置けない環境で批判精神を発達させてきたので、可愛げのない女になってしまい、ふつうに率直な感想を述べているだけでも「キツい」とか言われる。

 次に女子校のメリット
・男子の視線が女子を不自由にする。男子のブサイク差別はあまりにも露骨で残酷。でも女子校ならそのような男子の目線を気にせず、多感な時期を伸び伸び過ごせる。
・共学では男子をめぐって女子同士はライバルという認識があるが、女子校では「女の敵は女ではない」と思えるようになった。女子の良いところを素直にほめたり認めたりできるようになった。
・多感な時期に、性エネルギーを、他のこと、例えば表現活動や勉強に向けられる。
・女子だけで何でもやるのでタフになる。

 また「女子校出身者は見分けられる?」という項目では次のように書いてあります。

『レディー・ガガはカトリック系の女子校出身と聞いて、なんとなく腑に落ちた感がありました。性を超越した存在感や男性受けを考えない個性的なファッションなど、女子校らしさが凝縮されています。』
 なるほど、めちゃくちゃ腑に落ちました。

 女子校の一部にはお嬢様系(学習院女子や聖心、白百合など)にカテゴライズされる学校があるとのこと。聖心の中学生の作文が紹介されているのですが、こんな内容です。

「おかかえの庭師が庭に新しく池を造ってくれた」

 その他にも、
「人間国宝の壺をもらったんだけど、お母さんが造花を挿しちゃって」とか・・・。

 妻の友人にも、思いきりアッパークラスのお嬢様がいて、こんなエピソードがあります。
「うちのトイレに飾ってある画家の美術館が、今度○○にできるんですって」
 いや~、世界が違うなあ。

 本書ではさらに、お嬢様系女学校に通うことのメリットが、次のように紹介されています。
『身分不相応な学校に通ってしまったら、六年間劣等感まみれになってしまいます。しかし、その六年間を耐え忍べば、卒業後、アッパークラスの人脈を作れたことのさまざまな恩恵にあずかることができます。友人の別荘に泊まったり、医者になった友人に体の不調を相談したり、トラブルに巻き込まれたら弁護士の友人に相談したり・・・遠くの親戚よりも近くの同窓生、秘密結社並みに頼りになる中高の友達は一生の財産です。』
 兼好法師も、第百十七段で、
「よき友、三つあり。一つには、物くれる友。二つには医師。三つには、知恵ある友。」
とおっしゃってます。妻も,先ほどの友人の結婚披露宴では、ホテル「西洋銀座」でフルコースをいただく恩恵にあずかれたそうで。
 
 

 つらい仕事を進んで生徒にやらせる女子校の出身者インタビューもすごかったです。こんな感じです。

『「マリアさま いやなことは私が よろこんで」という嗜虐的な学園標語を掲げている東京純心女子。「受験前に標語の行間を読めば良かったです。あんなに掃除ばかりやらされるなんて」発作的に彼氏の部屋をピカピカにしてしまうことがあるそうで、六年間で刷り込まれた掃除精神は今も息づいています。中でもきついのはトイレ掃除。終わった後必ずシスターがチェックしにきて、なんと直接便器を手で触るそう。さらには「あなたたち、これをなめられるの?」と厳しく追及されることも。「今でも家のトイレを掃除しているとき、シスターの『なめられるの?』という声が頭の中で響くことがあります」
 高い学費を払っているのに、娘が掃除ばかりをさせられるのは理不尽かも知れないけど、親にとってみれば、娘が家の掃除をしてくれるようになるので、投資としてちゃんと見合っているような気もする』と筆者は述べています。参考にしたいと思います。

 あと、本書で激しく共感したのが、次の部分。

 『大人になった今、道で女子高生の登下校の集団とすれ違うことがありますが、一人で帰っている子の暗い雰囲気には身をつまされます。必要以上にみじめに感じているのが伝わってきて、大人になったら一人で帰るなんて当たり前なんだから! と声をかけたくなるくらいです。大人になったら何万回も一人で食事をして、一人で帰らないとならないのです。しかし、四六時中「友だち」に気を遣っていた頃に比べると「一人」のほうがはるかに気楽だし、第一いい年した女が群れていると異性との出会いを遠ざけてしまう結果になります。しかし、女子校時代は学校が世界の全部なので、どこかに所属していないと居場所がなくなってしまうのです。』

 ああ、この部分、この世のたくさんの、一人でがんばってる女の子に聞かせてあげたい、そう思いました。

 最後、女子校卒業後の章が、またかなりシビアです。要約すると、次のような感じです。

 『女子校においては「容姿において差別されない」というのが大きい。男子は驚くほど女性のルックスに厳しく、不美人には冷たい。共学ではブスのレッテルを貼られ、萎縮してしまいそうな人も、女子校ではのびのび過ごせる。しかし、快適な温室から出たら、厳しい現実が待っている。「努力すれば幸せが手に入ると思っていたのに、世の中は容姿重視なんですね」さらに、女子校内で普通にしていた振る舞いが、世間に受け入れられないことを知ってさらなる衝撃を受ける。例えば、人前でつい鼻をかんだり、かゆいから体をポリポリかいたりしていると、「えっ?」という男性の非難の視線にぶつかることがある。むだ毛除去やスカート、ヒールの靴、アクセサリーの必要性に気づくのも、共学出身者より遅い。「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」と言ったのはボーヴォワール(女子校出身)だが、女子校育ちの女性は大学や社会で男性と接するようになってから徐々に女になっていくのだ。』

 確かに、中学、高校、一般社会と、男どものほとんどは、今も昔も外見重視。ユーミンも「5センチの向こう岸」で「若い頃には人目が大事よ~」と歌ってます。がんばれ女子校出身者!

 

  おまけ

 雙葉学園の育ちの良さの一端を担っているのは、毎年のように出される「思いやり問題」と呼ばれるジャンルの問題だそうです。

問題
「春子さんは、となりの駅へ出かけるとちゅう、青葉駅のホームで、年配の女性から区役所への道順を尋ねられました。春子さんの立場になって、わかりやすく道順を説明しなさい。」

春子さん、という名前がまず素晴らしいですね!

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