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2011/11/13

DVD「わたしを離さないで」感想

 時代設定が現在よりもちょっと前となっていて、しかも現在とは違う社会が描かれている。最初のシーンで、「難病を克服する医療技術が開発され、人類の寿命は飛躍的に伸びた」と、ナレーションが入る。臓器移植のことらしいというのは、映画を観ていると、じわじわとわかってくる仕組みになっている。このじわじわが、恐ろしい。
 隔離された学園で育てられている少年少女たちは、皆、将来臓器移植のために使われる人体として育てられているらしい。新任の先生は、人道的にそんなことは許せないという正義感があるらしく、この事実を生徒たちに伝えるのだが、それを聞いた生徒たちは、特に泣き叫ぶわけでもないのだ。むしろ、風で机から落ちた先生のレジュメを拾って机上に戻したりする。つまり、そんなこと、この子たちはとっくに皆知っていて、しかもそれを受け入れている。と思わせる演出になっている。
 学園内で流通しているプラスチックの貨幣は、普段のボランティア活動の対価として、生徒たちに支給されるらしいのだが、それは、おもちゃと交換できるという決まりになっている。そのおもちゃが、どう見ても廃品まがいのものなのだ。しかし、生徒たちは嬉々として、自分が手に入れたおもちゃの価値を友人たちに自慢し合う。
 授業風景がある。それは喫茶店で店員に注文するロールプレイなのだ。中学の英語の授業で、英語を使って買い物をする授業はある。しかし、これは外国語の授業ではない。なぜ、そんなロールプレイが必要なのか。それは映画の後半で明かされる。隔離された学園内でしか生活経験のない彼らは、一般社会に出た時に店員とのやりとりができず、固まってしまうのだ。
 生徒たちが手首に付けたブレスレットが、宿舎の出入り口のセンサーと反応するシーンが何度も出てくる。彼らが管理されていて、逃げ出すことができないことを映像で示している。
 生徒たちは、自分のコピー元となった人物を、この目で見てみたいと思う。ところが、どうやら、コピー元となった人物というのは、社会的に何か問題を起こした人物であるらしい。制裁として臓器移植用クローンを作られる。そういうゆがんだSF世界が、静かにじわじわと描かれる。恐ろしい世界である。彼らクローンたちは、肝臓や腎臓などの臓器移植に自分の体を提供する。多くて3回の移植手術をしたら、彼らはたいてい死んでしまう。彼らクローンは、自分たちの運命を静かに受け入れている。だが、それでもふとしたはずみに、耐えられなくなった心の揺らぎが、表に出てくるのだ。夜の一本道の真ん中で彼は絶叫する。その描き方が,実に静かで、哀しい。
 「猿の惑星」みたいに、人類に対して怒りの感情をむき出しにしたりするわけでも、ましてや反乱を起こすわけでもなく、彼らは彼らの人生を、精一杯生きようとする。その健気な生き様が、観ている者の心を揺さぶる。
 この、非人道的な設定が受け入れられない人には、本作は虫酸の走る作品であろう。だが、生まれたときから、自分の力ではどうしようもない定めを背負わされ、それでも懸命に生きようとする人は、今の地球上にも沢山いる。そういった現実を思いながら観るというのが本作の鑑賞の仕方なのかもしれない。

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