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2011/08/27

DVD「君を想って海をゆく」感想

 フランス映画

 「イラクから歩いてフランス最北端の街へたどり着いたビラル。クルド人難民の少年がイギリスに渡る最後の手段-それは海を泳ぐこと」

 これがこの映画のキャッチコピー。

 

 クルド人少年ビラルには、つきあって3年になる恋人がいる。ところが彼女は家族と共に、すでに移民手続きを取り、イギリスに移住している。ビラルは彼女に会うために、はるばるイラクから、ある時は徒歩で、ある時は貨物列車に忍び込んで、ついにフランス北端の港町までやってくるという、なかなかに泣かせる設定なのだ。

 ところが本作、そんな泣かせる設定なのに、演出は抑制が効いている。ドラマティックな曲など一切流れず、「愛してるよ~」と海にむかって叫ぶシーンなどなく、ましてや「お前のために、おれは命を捨てる」的な自己陶酔チックな演出など皆無である。ビラル少年はひたすら寡黙に、まっすぐな目で、正直かつ真摯な表情で、厳しい現実を見つめるのだ。流れる音楽はピアノによるシンプルで寂しげなメロディー、ただそれだけ。「さあどうだ、泣ける話だぞ」的な作りではないのに、やたらと胸にぐっとくるのだ。

 ビラルは、その町でスイミングスクールのコーチをしているシモンという中年男性に、クロールを教えて欲しいと願い出る。

 このシモン、美人の奥さんと離婚調停のまっ最中という設定。「彼が海を渡るのは、恋人のためだ。4000キロ歩き、今度は海峡を泳いで渡る。僕は目の前の君すら手放すのに」というセリフが、これまたぐっとくる。二組のカップルの対比がこの作品に深みを与えるのだ。

 さらに、この後のシモンの矛盾した言動が、論理的でないぶん、リアルさがあるのだ。

 「いいか、水温は10度。そこを10時間。10分おきに巨大タンカーが通る。泳げると思うか?」そういってビラルに渡海を断念させようとするかと思えば、ウェットスーツを貸してやったり。そうかと思ったら、ビラルが海に出たと知ったとたん、海上警備隊に捜索願を出したり。 

 今フランスは、クルド人その他の難民対策として、難民を援助したり、炊き出しを行ったりする活動家は逮捕し、難民は国外に追放するという政策がとられている。そういう背景があることを、本作を見る前に知っておきたい。

 実際にフランスに旅行に行った人から聞いた話だが、とにかく治安が悪いらしい。団体からちょっとはぐれて一人でいると、とたんにロマとおぼしき一段に取り囲まれたそうだ。日本人旅行客は彼らにとって、カモカモーンwithポロネギであるらしい。フランス国家としては、彼らを野放しにするわけにはいかないのだろう。

 原題は「ウエルカム」つまり「ようこそ」。 これはシモンの隣人の玄関マットに印刷してある単語なのだ。隣人は、政府の政策どおり、難民に対し、差別的な言動をする。ビラル少年をかくまうシモンを、警察に通報するのだ。

 表向き「ウエルカム」と言ってはいる。でも、金を落とす日本人団体旅行客は歓迎するが、難民は追い返す。フランスは今、そういう国になっている。そこを風刺したタイトルと考えられる。

 島国日本に住んでいるため、難民問題に対しては対岸の火事的な感覚でとらえがちで、どうにも現実感がない。想像力を働かせて見る必要のある映画だ。

 

 

 

 

 

 

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