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2011/05/28

DVD「ゲゲゲの女房」感想

 NHK朝の連続テレビドラマとは全く違った方向から作られた「ゲゲゲ」である。だが、たぶんこちらの方がより真実に近いのではないだろうか。

 まず主役の水木しげるを演じるのが、向井理ではなく、宮藤官九郎であるところからして、180度路線が違う。イケメン爽やか路線で、全国のお茶の間の奥様方のハートだけでなく、共演の松下奈緒のハートまでもを鷲掴みにしたらしい向井理。しかし、実際の水木しげるは、そんな爽やかイケメンでないことは皆知っている。彼の描く作品に登場する人物には、なにがしかの影がついて回るが、それは作者の心の闇の投影であろう。戦争で片腕失い、生死をさまよった人物が描くマンガは、おどろおどろしい怨念がついて回る。後にアニメ化されたゲゲゲの鬼太郎のような、可愛らしいキャラたちの世界では決してない。

 そういう雰囲気を、本作は、合間にモノクロアニメを入れる演出で、見事に表現している。また、宮藤官九郎が、若い頃の水木しげる作品に垣間見られる狂気を見事に演じている。

 テレビ版で描かれた「腐りかけたバナナを安く買いたたく」エピソードは本作にも登場するが、ほんわかほのぼのムードで描かれたテレビ版とは違う、切羽詰まった状況での窮余の策として描かれる。さらにその状況を、水木しげるは「生きてさえいればもうけもの」と笑い飛ばして乗り越えるのだが、その心の持ちようを、南方で現地人に支えられ生き延びた過去のシーンを想起させる妖しげな演出(非現実世界への逃避?)を入れることで表現している。

 そんなクドカン水木しげるに影響を受け、少しずつ逞しい女に変容していく布枝さんを吹石一恵が熱演。ついには、夫婦して墓場でヒトダマが見えるようになるまで成長(?)するのだ。

 音楽も、NHKでは「いきものがかり」が、思いきり爽やかな、「夫婦連帯して苦労を乗り越えたけど、すべてはお父ちゃんの人生訓のおかげ、お父ちゃんありがとう愛してるよ」ソングを毎朝流していた。しかし本作の音楽は180度コンセプトが違う。ムーンライダーズが、思いきり妖しげな曲を演奏しているのだ。いっぺん聞いたら耳にこびりついて離れないだろう。とにかく妖しい。ゲゲゲッゲッゲ ゲゲゲッゲッゲ ゲゲゲ~のにょおーぼー・・・

 ちなみにムーンライダーズの鈴木慶一氏、古本屋の主人として出演したりしている。

 映画は講談社が少年マガジンの連載話を持ってきて、暮らしがやっと上向きになってきたらしいことを象徴するシーンでエンディングとなる。「終わりよければすべてよし」と水木しげるは言っているが、「暗い」し「かわいくない」ため、子ども受けしない水木しげるの作品を、当時の講談社がよく採用してくれたものである。決断した編集長に拍手を送りたい。

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