« 角田光代「ひそやかな花園」感想 | トップページ | 佐藤多佳子「聖夜」感想 »

2011/03/12

角田光代「ツリーハウス」感想

 二週続けて角田光代さんです。
 表紙絵は一見、ビル街の屋上に木が植わっていて、それがピンクの花を咲かせているように見えます。それもあちこち、たくさん。桜にしては色が濃いから、これは桃? それとも梅? 
 妻が「それ、オスカールの絵じゃない?」と聞くので、扉を開いて確かめるとそのとおり。「じゃあ、この花みたいに見えるの、花じゃなくて、空襲、爆弾だよ。」 え? そうなの?
 タイトルが「ツリーハウス」で、表紙絵がこれだから、てっきり、ビルの屋上にみんなが木を植えて、その木の上に隠れ家でも作る話かと思ってました。全然違いました。

 たしかにツリーハウスは作ります。しかし、本書は戦後、満州からの引き揚げを経験した祖父と祖母、そしてその息子たち、孫たちの65年にわたるストーリーなのです。テーマは「逃げる!」 田舎の苦しい生活から逃げるため満州に渡り、徴兵から逃げるために脱走します。後でどうなるかなんて考えません。そして、そんな「逃げ」のDNAが、子どもや孫に脈々と受け継がれる。ツリーハウスは逃げ場所のメタファーとして、象徴として登場します。子も孫も、大事なことからはひたすら逃げて逃げて逃げまくって、そのため後で手痛いしっぺ返しを食らうのです。

 私の父も満州からの引き上げ組です。いまだに当時のことをほとんど語ろうとしません。あの世に行く前に、根掘り葉掘り聞き出してやろうか。それともパンドラの箱として、ほうっておこうか。

 小説の後半で祖母がのたまう言葉の数々に、とことん打ちのめされます。

「あんた、自分がやった馬鹿はね、ぜんぶ自分に跳ね返ってくるんだよ。」

「ここじゃない、どこか遠くにいけば、すごいことが待っているように思うんだろ。でもね、どこにいったって、すごいことなんて待ってないんだ。」

「逃げるってことしか、時代に抗う方法を知らなかったんだよ。」

「あんたの親たちにね、逃げること以外教えられなかった。あの子たちは逃げてばっかり。それしかできない大人になっちまった。だからあんたたちも、逃げるしかできない。それは申し訳なく思うよ。それしか教えられること、なかったんだからね」

 こうして孫は、自分の甘さと弱さを祖母から指摘される。ずばりと。まざまざと。そして、残された家族たちは新たなスタートを切る、そこでこの小説は終わるのです。

 素晴らしい読後感でした。

 東北、関東一帯を襲った未曾有の大地震。再起できるかどうかというこの日この時、「ツリーハウス」の家族のように、再び新たなスタートが切れることをお祈りします。

|

« 角田光代「ひそやかな花園」感想 | トップページ | 佐藤多佳子「聖夜」感想 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/49249/51103210

この記事へのトラックバック一覧です: 角田光代「ツリーハウス」感想:

« 角田光代「ひそやかな花園」感想 | トップページ | 佐藤多佳子「聖夜」感想 »