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2011/01/22

上田早夕里「華竜の宮」感想

 長編SFです。
 三人称で書かれています。
 で、主人公がめまぐるしく変わります。
 最初の数ページ、「鴻野は~した。」とか書いてあるわけです。したがって読者は当然、この鴻野教授がこれからのドラマの中心的な人物であろう、と思って読むでしょう。しかし、作者はあっさりそれを否定。なにしろ、いきなり時代がぽんと飛びますから。河野教授、ほとんどドラマらしいドラマもないままに出番は終わり、地球環境激変! 大陸平野部のほとんどが水没します。原因は別に二酸化炭素による地球温暖化というわけではありません。地殻変動が原因です。本作は、わずかに残された地上と、地球表面のほとんどを占めることになった海で、それぞれがんばって生き延びた人類たちのドラマが本編となっています。
 本当の主人公はセイジ・青澄。
 でも、登場人物多すぎます。200ページ読んだあたりで混乱して、仕方なく一覧表を作りました。でも、これって普通、編集者が巻頭あたりにつけてくれるものなんじゃないですか? 500ページを越える長編、しかも上下二段組みなんだし。

 SFなので、世界設定がまさしく近未来。海上生活に適応するべく、人体改造された海上民。彼らのパートナーは魚舟と呼ばれる、遺伝子操作によって生まれた生命体。30メートルに達する巨大生物が、海上民とコミュニケーションを交わし、アシストをします。
 また、地上民は地上民で、iプローブという、アンドロイドのようなアシスタント知性体がいて、主人のアシストをしてくれるという設定です。
 それぞれのアシスタントが、主人のためにけなげに働く姿が実に魅力的です。
 でも、ドラマのほうは、バリバリの政治の駆け引きが主となっています。繰り返しますが主人公の名前はセイジ・青澄。政治、青二才、不正を嫌う澄んだ心、この三つが名前に込められているみたいです。
 前半は海上民と地上民の対立がメインドラマとなっています。複数の国家が互いの利権を主張して絡み合い、それぞれにハイテク技術を使った裏工作を仕掛けてくるのですね。セイジ・青澄君が、パートナー・マキの助けを借りて、国家間の利益を超え、苦しんでいる現地民たちに有益な方向へ交渉を導こうと奮闘するドラマです。
 ところが、途中から、別のドラマが始まります。地殻調査により、50年以内に地球環境が再度激しく変化することがわかり、地球表面のちまちまとした利権を巡って対立しているどころの話ではなくなってくるわけです。人類存亡の瀬戸際で、登場人物たちはお互いの損得勘定を捨てて、人類全体にとってベストの選択をしなければならない。ただならぬ緊迫感で一気に読ませる本格SFです。楽しかった。

 以下に、これから本書を読もうと思っている人のために、登場人物一覧表を載せます。プリントアウトするなどして、お役立てください。ただし、ラストのクライマックスに登場する人物は、ネタバレ防止のため削除してあります。

◎ 地殻変動以前の主な登場人物

鴻野と星川=地殻変動による大陸水没(リ・クリティシャス)を予言した学者。

◎ 地殻変動後の主な登場人物

○ 日本所属
 セイジ・青澄=主人公。日本の外洋公使。海上都市エア01勤務。
 マキ=セイジのアシスタント知性体
 ケイジ・青澄=セイジの兄
 クニヒロ・青澄=セイジの父
 タケモト=海上都市エア01の駐在武官、1等書記官。
 スペード=タケモトのアシスタント知性体
 神崎少尉=タケモト武官の同僚。潜水艇の責任者。
 桂大使=エア01の大使
 青猫=桂大使のアシスタント知性体
 桜木=日本公安庁からエア01に出向の情報収集官
 R・R=桜木のアシスタント知性体
 間宮ユウイチ=セイジ・青澄が尊敬する人物。外交官、故人。
 錦邑局長=日本の公安管理局よりエア01に出向。後に本省に戻る。
 桝岡・クロウ=日本の外務省事務次官代理。後に錦邑局長の後任としてエア01の局長となる。
 スコープ=桝岡局長のアシスタント知性体
 藤堂外相=桝岡局長の恩師、上司。

○ 海上民とその周辺に所属する人々
 オサ・ツキソメ=第二の主人公。海上民をしたがえるオサ(長)。
 ユズリハ=ツキソメのパートナー魚舟
 エド・ウォレス=ツキソメの育ての親。故人。
 リンディ=ウォレスの友人。
 ハニ=幼いツキソメを受け入れた海上民
 アサギ=ツキソメの夫。病潮ウイルスで死亡。ユズリハをツキソメに譲る。
 サガイ=ツキソメ船団の中で一番若いソエオサ(副長)。
 ムラノ=ツキソメと交流を持つサルベージ業者。
 サリス=ダックウィード(海上で商売をして暮らす人)。青澄の性格をツキソメに報告。
 ソナムーン=汎アの画策をエア01に上告する。
 ヨーワ=海上民を診療するドクター
 キツルバミ=ツキソメ船団のソエオサの一人。
 ウェイ・ミンチュ=シガテラ(海賊)の首領。

○ SOE(ネジェスの特殊公館)所属
 ケネス・ミラー=SOE副総括官
 ナンシー=ケネスのアシスタント知性体
 ニコラス・ナゼル=ミラーの上司。SOE統括官

○ 汎アジア連合所属
 ツェン・タイフォン=第3の主人公。シガテラ(海賊)討伐をする武装海上警察。
 燦(ツァン)=タイフォンのアシスタント知性体。
 月牙(ユエヤー)=タイフォンのパートナー魚舟
 ツェン・リー=タイフォンの兄。汎アジア連合政治院上級委員
 ジンニェン=タイフォンの父
 イーフェイ=タイフォンの母
 ケイファ=タイフォンのいとこ、夫を亡くしている。
 オサ・ハイラン=タイフォンの友人で汎ア海上民たちのオサ
 ユアン=タイフォンに心酔する若い海上警備隊員
 サルドニカ=ユアンのパートナー魚舟
 デン=タイフォン隊の副隊長
 ヤオ将校=タイフォンの上司
 ナチン・シュエラン=汎ア連合政治上級委員。ツェンと親しい。
 ドゥアン=シュエラン上級議員の知人

○ 国際環境研究連合(IERA)所属
 春原教授=IERA日本支部。人類絶滅の大規模災害を予測し、L計画を提案。
 イハラ・トミオ=病潮ウイルスをばらまくムツメクラゲを調査する研究員。

 

○ 用語
 ネジェス(NODE)=アメリカ、ロシア、アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパの一部、日本などの連合。テティス、ネレウス、プロテウスの三部門に分かれる。SOEという特殊公館を持つ。
 汎ユーラシア連合=中東とヨーロッパ一部の連合
 汎アジア連合=中国以南、樺太、朝鮮、台湾、インドシナ、インドの連合
 シャドウランズ=IERAが所有する環境シミュレータ
 SSAI=アシスタント知性体たちが交流するネットワーク

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コメント

お役に立てて何よりです。
私の好きな作家さんですので、ぜひ本作を楽しんでいただけたらと思います。

投稿: たきたき | 2017/07/02 16:11

登場人物一覧表、非常に助かります。いま下巻を読んでいる途中ですが、頭がパンクしてきて(笑)読んでればそのうち自然とわかるやろうと、高を括っていたのですが、特に組織の名称が分けわからなくなって。ネット検索でこちら見つけた次第です。

投稿: Rabbia | 2017/07/02 11:39

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