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2010/09/05

DVD「南極料理人」感想

 今、日本は9月であるにも関わらず、猛烈な残暑ですが、本作の舞台はマイナス50度の南極ど真ん中。よく冷えてます。

 とにかく、南極らしいとんでもない舞台設定がてんこもりです。

 まず、一日中太陽が沈まない季節と、一日中夜の季節が半年周期でやってくる。

 標高がなんと3000メートル越えてる。おかげで気圧が低く、お湯が80度くらいで沸騰するらしい。夜中、コックにこっそりラーメン作って食べる隊員たちが、「しんが残ってるんだけど・・・」と情けない顔をする。

 日本にKDDI経由で電話をかけることはできるが、1分700円以上かかるらしく、電話機の前に「長電話は破産」みたいな恐ろしい注意書きが貼ってある。

 マイナス50度の世界ではウイルスも生存しないらしく(正確には結晶化して活動休止状態なのでは?)「熱があるんです。風邪ひいたかも」「ここには風邪のウイルスはいませんよ」という感じで、仮病も使えません。

 食材は基本的に缶詰中心。生野菜は室内で育ててみたものの、カイワレくらいしか育たない。

 水は貴重。材料(雪・氷)はいくらでもあるが、それをドラム缶に詰めて基地に運び込むという重労働は、隊員8人で毎日協力してやらなければならないから。

 毎日が単調で退屈。耐えきれなくなって「帰る」と叫び、氷の上を走り出す隊員も時々いるが、「死ぬよ」の一言で冷静さを取り戻す。

 約1年半、8人のおっさん(青年一人含む)たちだけで生活しなければならない。

 こんな舞台設定だけでもう十分ドラマとして成り立ちそうなんですが、さらに、8人の親父隊員(一人青年含む)たちが、暇つぶしのために様々な、あほらしくもおかしい工夫を凝らす姿が加わって、ほのぼの笑えます。

 主人公の西村氏の立場がまた微妙。南極行きが決まっていたコックさんが交通事故に遭い、急遽代役として任命されるのですね。「あの、家族と相談させてください」「おめでとう」「家族と、相談させて、ください」「おめでとう」「家族と、相談、させて、ください」「・・・おめでとう」みたいな、無理矢理南極行きを押しつけるシーンがありますが、この押しつける役が、嶋田久作。見事にはまってます。

 さて西村氏、家に帰って8歳の娘に「こんな所にパパ行っちゃったら寂しいだろ」「ううん、全然!」と返されたり、節分の日に「パパがいなくて我が家はみんなのびのびしてます」などというファックスが来たり、どうやら家での居場所がなさそうな設定。

 そんな西村氏、南極では、限られた食材を、まるで一流レストランみたいな食事に仕上げて出します。冒頭のシーンはまさにシェフそのもの。皿の周辺部にこぼれたソースを、ていねいに布巾で拭き取るのです。それなのに、誰も「おいしい」と言ってくれない。絶妙のソースをかけてあるその上から、醤油をドボドボかけられたり。苦労がまったく評価されません。

 そんな西村氏、ある日、大切にしていた娘の乳歯を、隊員達の騒動に巻き込まれて、南極に掘った海底2500メートルへと届く深い穴に落としてしまいます。「あ、下の歯なのに・・・」ショックで寝込む西村氏。隊員達が謝っても部屋から出てきません。お腹がすいた隊員たちは仕方なく自分たちで鳥の唐揚げをつくるのですね。やっと部屋から出てきた西村氏に食べてもらい「どう?」と聞きます。この部分は伏線が前の方に貼ってあって、感動的です。「ああ、自分はこの人たちのためにがんばらなくちゃなあ。自分はこの人たちから必要とされているんだなあ」と、しみじみと感じる。いいシーンです。

 8人のおっさん隊員の中に一人、青年が混じっています。演じるのは高良健吾君。「フィッシュストーリー」や「ボックス!」でイケメンを演じた彼が、本作では遠距離恋愛の末、彼女に振られる情けない青年役を演じます。妻が「あー、もったいない。こんなイケメン捨てるなんて」とつぶやいておりました。ラスト、彼にはちょっとしたご褒美があるんですが、これはさすがに実話じゃないですよね?

 笑いの壺はたくさんありますが、個人的には「伊勢エビか、それじゃあ今夜はエビフライだな」「や、伊勢エビなら、刺身とかでしょ」「いいか、西村君。俺たちの心の中じゃあ、もうすでに今夜のおかずはエビフライだからな」「エッビフライッ」「エッビフッライッ」合唱しながら雪をドラム缶に詰める隊員達。で、その夜の食事シーンがかなり壺にはまりました。西村氏、かなり茶目っ気ある人なんですね。

 今、南米チリでは落盤事故で、やはり閉鎖空間の中、3ヶ月以上おっさんたちだけで暮らさなければならない状況のようです。南極では、西村氏が毎日おいしい料理を作って、隊員達の心を元気づけてあげていたけど、チリではどうも、そういうわけにはいかないようです。直径15センチのパイプが地上とつながっているそうだから、せめて時々おいしい食事を、パイプを使って地下に届けてあげられたらいいかもしれないなどと、本作を見て思ったりしました。

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